17歳の瞳に映る世界 c)2020 FOCUS FEATURES, LLC. All Rights Reserved.

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2021.7.15

17歳の瞳に映る世界

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)。

10代の妊娠を描いた映画は多くても、この作品はどれとも似ていない。劇的感興をそぎ落とし、冷徹なリアリズムを貫きながら、主人公の内面に驚くほど肉薄する。新鋭エリザ・ヒットマン監督の第3作、ベルリン国際映画祭で審査員グランプリを受賞した。

筋立ては簡潔だ。望まない妊娠をした17歳のオータム(シドニー・フラニガン)が、いとこのスカイラー(タリア・ライダー)とニューヨークに行き中絶手術を受ける。その一部始終を、オータムの視点からのみ描く。病院で中絶の再考を促すビデオを見せられる。地元ペンシルベニアでは、親に知られずに中絶手術を受けることは望めないと知る。同じバイト先のスカイラーが売り上げの金をくすねて旅費にする。

オータムの妊娠についての事情は示されない。誰にも聞かれないからだ。不慣れな都会に戸惑い、野蛮な世間に冷たくあしらわれ、男たちの欲望におびえる一方で、中絶手術の手続きは淡々と進む。オータムを困らせるのは法や宗教や道徳ではなくて、2泊しなくてはいけない手続きの方だ。無愛想で無口なオータムはほとんど無表情で、命の尊厳といった建前も語られないから、映画は戸惑うほどに素っ気ない。

唯一、感情が噴出するのは、手術が決まってカウンセラーから義務的な質問を受けた時だ。答えは4択。映画の原題でもある「Never(決して)、Rarely(ほとんどない)、Sometimes(時々)、Always(いつも)」。「脅かされたことは」「暴力を振るわれたことは」「無理やり性行為をされたことは」――。気丈で無謀で、大人びたオータムから、もろくて繊細な少女が現れる。ヒットマン監督は禁欲的な姿勢を保ちながら、女性を取り巻く社会を鋭く描き出すのである。1時間41分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(勝)

ここに注目

 旅の移動中のシーンや少女たちがニューヨークをあてどなくさまようシークエンスなど、いささか単調でスローに感じられる語り口は、本作の難点だろう。その一方で、彼女たちがいくつもの日常的なハラスメントにさらされている現実の取り込み方は鋭くも巧み。過剰なカメラワークや編集の技巧を排したヒットマン監督の粘り強く真摯(しんし)なまなざしも、映画の純度を高めている。そして終始、不機嫌そうなオータムと無邪気なスカイラーの友情の形を、密(ひそ)やかな一瞬のクローズアップで表現してみせた終盤のワンショットに胸を打たれた。(諭)

ここに注目

原題にもなっているカウンセラーとオータムとの緊迫感あふれる会話のやりとりが圧巻で、生を実感する場面だ。厳しさとぬくもりが一体となった患者へのプロフェッショナルな対応や処置に目を見張り、17歳でも個人の意思と責任を重んじるアメリカ社会の一断面に胸が熱くなった。徹底したリアリズムで押し通しつつも、見せたい場面とうだうだとした説明を排した潔い省略で想像力と洞察力を刺激する。いとこが作り出すリズムとともに、バスで出会う男性乗客やニューヨークの雑踏を風景の中に落とし込んだ手法も生きている。(鈴)