「ブラックベリー」より  © 2023 Budgie Films Inc. All rights reserved.

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2024.6.17

オバマ元米大統領も愛した世界初スマートフォンの栄枯盛衰を描いた映画「ブラックベリー」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

ひとしねま

須永貴子

フルキーボードを搭載した世界初のスマートフォン BlackBerry(ブラックベリー)は、バラク・オバマ元アメリカ大統領をはじめセレブリティーたちを魅了し一世を風靡(ふうび)した。しかし、アップル社のiPhoneの登場により、次第にシェアを失ってしまう。その栄枯盛衰を実話に基づいて描くカナダ映画「ブラックベリー」(2023年/日本未公開)が、U-NEXTで6月6日(木)より配信中だ。
 

幼なじみ2人でBlackBerryを開発

オンタリオ州ウォータールー。大学を中退した天才開発者マイク・ラザリディス(ジェイ・バルチェル)は幼なじみのダグことダグラス・フレギン(マット・ジョンソン)と、1984年にリサーチ・イン・モーション(RIM)社を創業した。
 
96年、彼らは電話にコンピューターを搭載した画期的なモバイル機器「ポケットプラン(仮称)」を開発中だった。しかし10人に満たない会社のメンバーは映画やゲームを愛するハイテクオタクの開発者ばかりで、営業や交渉術、金策にたけている人物が1人もおらず、会社は火の車である。
 
そこにハーバード大卒でMBAを取得している剛腕ビジネスマン、ジム・バルシリー(グレン・ハワートン)が現れ、共同CEOに就任する。このバルシリーの常軌を逸したパワハラ&俺様キャラがマイクたちを振り回し、本作の推進力となる。
 
常に上から目線で命令口調、感謝や謝罪の言葉を述べることは絶対にない。経理スタッフとしてセクシーな美女を突然連れてくる。得意技は、恫喝(どうかつ)と罵倒と4文字ワード。思い通りにいかないことがあると瞬間湯沸かし器のように激高し、オフィスの電話機や公衆電話の受話器をたたきつけて破壊するのだ。
 
この破壊行動から、彼がテクノロジーに対してまったく愛情や敬意を持っていないことは明らかである。実際、BlackBerryが大成功を収めた後に彼が心血を注いだ事案は、愛するNHL(北アメリカのプロアイスホッケーリーグ)に所属するチームの買収計画だった。
 
とはいえ彼がいなかったら、BlackBerryは誕生しなかっただろう。なぜならマイクは完璧を追求するあまり、テック(に限らずだが)ビジネスに必要なスピード感を持ち合わせていなかったからだ。バルシリーがニューヨークの大手通信会社に勝手にアポイントメントを入れて、マイクたちが徹夜でプロトタイプを組み立てるシーンは、本作の最初の盛り上がりとなる。そのプレゼンが大成功し、ポケットプラン改めBlackBerryが誕生したのだ。
 

iPhone出現の衝撃

当時のニュースや資料映像に自然になじむ粒子の粗い映像が、90〜00年代の空気を懐かしくも生き生きと活写する。そこで描かれるRIMのメンバーたちのギークっぷりに、魅了されない観客はいないだろう。携帯電話をバンドで耳に固定して通話しながら、アナログの電話回線でネットゲームに興じたり、ムービーナイトではみんなで映画を鑑賞したりと、遊び心のある(遊んでいるだけともいえるが)オフィスの風景がほほえましい。
 
特にダグは、映画Tシャツを日替わりで着用するほどの映画オタクだ。「ブレックファスト・クラブ」の〈大人になると心が死ぬ〉や「デューン 砂の惑星」の〈夢が現実になることもある〉など、ことあるごとに映画のセリフを引用する。マイクがギャラ交渉の練習をするときの参考映画は「ウォール街」だ。
 
マイクは身なりも言動もそれなりに洗練されていくが、ダグは何年たっても何一つ変わらない。Tシャツ&ヘアバンドのスタイルで、映画と仲間(もちろんマイクも!)を愛するダグを演じているマット・ジョンソンは、本作の監督でもある。彼のギークへの愛情があふれる描き方と演じ方が、本作における良心となっている。
 
本作は「スティーブ・ジョブズ」(15年)や「AIR/エア」(23年)などに類する、イノベーションの過程をスリリングに描いた人間ドラマだ。BlackBerryの命名の由来や、敵対的買収の危機にバルシリーが使った禁じ手、RIMの業績上昇とともに同社の株に群がるハイエナたちの無理難題をマイクたち開発者がどうクリアしていったのかなど、驚きのエピソードが満載だ。
 
「世界一の電話を作る」というプライドを支えに奮闘してきたマイクたちは、07年に終わりの始まりを迎える。トラックパッドで操作する初代iPhoneが発表されたのだ。世界初のスマートフォン、BlackBerryの始まりと終わりを描いたこの作品は、iPhoneの出現がどれほどの革命であり脅威であったのかを、業界や同業者側から記録したことに、皮肉にも特筆すべきの価値がある。
 
「ブラックベリー」はU-NEXTで配信中

ライター
ひとしねま

須永貴子

すなが・たかこ ライター。映画やドラマ、TVバラエティーをメインの領域に、インタビューや作品レビューを執筆。仕事以外で好きなものは、食、酒、旅、犬。

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