ひとしねま

2022.7.15

チャートの裏側:魅力の源泉が混乱にも

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

1位の「ソー ラブ&サンダー」は、最初の3日間の興行収入が約5億9000万円にのぼった。大ヒットである。米国のマーベルコミックスを原案とするマーベル映画の新作だ。このシリーズは今作で4本目。これまで10億円を超えたのは1本のみ。今回は最高成績が期待される。

幾多の苦難を経たヒーローのソーが、スーパーパワーを得た〝元カノ〟と共闘する。珍しく下ネタもあり、コミカルな作風かと思いきや、そうでもない。愛を深めていく男女共闘のヒーロー劇には、ずしりと重い筋書きもある。ただ、どこか新鮮味に欠ける。なぜだろうか。

マーベル映画の現状を考える。2020年以降では、新作以外で7本が公開。別格的な人気を誇る「スパイダーマン」を除くと、20億円台が1本、10億円台が2本、10億円以下が3本である。新型コロナウイルスまん延期を挟んでいるとはいえ、数字が今一つ伸びていないのがわかる。

マーベル映画は中身が相互に関連しあい、多面的な映画世界をもつ。近年は配信作品も増え、その色合いがさらに広がった。ただ先の興行から、魅力の源泉たる多面性が、逆に混乱の度合いを増していないか。企画力、アイデアも作品数が増えれば、切れ味は弱まる。「ソー」が高成績になったとしても、そのような懸念が深まるとみる。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)