「ブラック・サンデー」2©1976 by Gelderse Maatschappij N.V. All Rights Reserved. TM,® & Copyright ©2006 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

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2022.10.11

〝幻の傑作〟 8万人標的の巨大テロを阻止せよ 「ブラック・サンデー」:謎とスリルのアンソロジー

ハラハラドキドキ、謎とスリルで魅惑するミステリー&サスペンス映画の世界。古今東西の名作の収集家、映画ライターの高橋諭治がキーワードから探ります。

高橋諭治

高橋諭治

「ブラック・サンデー」(1977年)は日本において長らく幻の映画だった。77年の夏休み向けの大作として宣伝されていたこの映画は、映画館などに上映中止を要求する差出人不明の脅迫状が届いたことで、封切りの1週間前に公開中止が決定。日本でDVD化されたのは2000年代半ばのことで、初めて劇場での正式な上映が実現したのは2012年の「午前十時の映画祭」だった。


 

キーワード「怨念と執念の激突」

少年時代にアメリカ製のパニック映画が大好物だった筆者も、77年当時「ブラック・サンデー」を楽しみにしていたひとりである。とはいえ「脅迫状で公開中止なんてことがあるのか」と驚いた程度で、心の底からがっかりしたわけではなかった。なぜなら同年の春に、同じくフットボール会場を舞台にしたチャールトン・ヘストン主演の「パニック・イン・スタジアム」(76年)を鑑賞し、それなりの満足感を得ていたため、「ブラック・サンデー」はその二番煎じみたいなものだろうと見なしていたのだ。後年になって、この思い込みは間違いだったことが判明する。全編が異様なテンションに貫かれたこのサスペンスアクションは、パニック映画が一大ブームになっていた70年代においても指折りの壮絶なクライマックスが映像化された快作だったのだ!
 

パレスチナ問題、ベトナムの影を取り込んだ物語

とある11月、カバコフ少佐(ロバート・ショウ)率いるイスラエルの特殊部隊が、レバノン・ベイルートにあるパレスチナ過激派組織〝黒い九月〟のアジトを急襲する。現場で回収されたテープから〝黒い九月〟がアメリカで新たなテロをもくろんでいることを察知したカバコフは、ワシントンD.C.に飛んでFBIとの共同捜査を開始。その頃、すでにアメリカに入国していた〝黒い九月〟の女性メンバー、ダーリア(マルト・ケラー)は、ベトナム帰りのパイロット、ランダー(ブルース・ダーン)とともに、新年にマイアミで催されるスーパーボウルを狙ったテロ計画を進めていた……。
 
製作を務めたのは、パラマウントで「ゴッドファーザー」(72年)、「チャイナタウン」(74年)などの大ヒット作を連打したロバート・エバンス。本作もれっきとしたハリウッド大作だが、アメリカを舞台にしていながらアメリカ人のヒーローが登場しない異色作である。R・ショウ扮(ふん)する主人公カバコフは対テロ特殊部隊のリーダーであるイスラエルの軍人で、彼が追うダーリアはパレスチナの苦境を世界中に知らしめるため、アメリカを恐怖のどん底に陥れようとするテロリスト。さらにダーリアの相棒である元米兵ランダーは、ベトナムの戦場で心を病み、自分をないがしろにした祖国へのゆがんだ復讐(ふくしゅう)心を煮えたぎらせている。
 

爆弾を乗せてスタジアムに迫る飛行船の恐怖!

ダーリアとランダーが立案したテロは、無数の金属片を仕込んだ約600キロのプラスチック爆弾を飛行船でマイアミのスタジアム上空に持ち込み、スーパーボウルに熱狂する8万人の大観衆を皆殺しにするというもの。たった2人で途方もない巨大な計画を実行しようとするテロリストと、イスラエルの威信をかけて何が何でもテロを阻止しようとするカバコフの行動が並行して描かれていく。
 
最大の見どころはクライマックスの30分間。代理のパイロットとしてまんまとテレビ中継用の飛行船に乗り込んだランダーと、プラスチック爆弾を車で飛行場に運ぶダーリアの姿をカットバックさせたシークエンスが、ジョン・ウィリアムズの音楽と相まってぐいぐいサスペンスを加速させる。それに気づいたカバコフがヘリコプターで猛然と追いすがるスカイアクションは、もはやまばたきさえ忘れるほどの迫力だ。
 

剛腕ジョン・フランケンハイマーが映像化した荒々しいアクション

実際のスーパーボウル会場でも撮影を実施した映像には、まだCGがなかった時代ゆえの本物の臨場感がみなぎっている。パニック映画のDVDジャケットには、しばしば誇張したビジュアルが使用されるが、本作は偽りなし。テロリストの怨念(おんねん)とそれを食い止めんとする者の執念の激突を、荒々しいアクションに結実させたジョン・フランケンハイマー監督の剛腕ぶり、R・ショウやB・ダーンの鬼気迫る熱演にうならずにいられない。
 
ちなみにジャケット写真の飛行船は、白い機体に〝Super Bowl〟というロゴがついているが、実際の撮影では大手タイヤメーカー、グッドイヤーの飛行船が使用され、劇中では〝GOODYEAR〟のロゴが繰り返し映し出される。企業のイメージアップにつながるとは到底思えない内容の作品だが、フランケンハイマー監督が自ら同社の社長と交渉し、「悪役のパイロットはグッドイヤーの従業員ではない」などの条件付きで使用を許可されたという。
 
「ブラック・サンデー」はNBCユニバーサル・エンターテイメントからDVD発売中。1572円。

ライター
高橋諭治

高橋諭治

たかはし・ゆじ 純真な少年時代に恐怖映画を見すぎて、人生を踏み外した映画ライター。毎日新聞「シネマの週末」、映画.com、劇場パンフレットなどに寄稿しながら、世界中の謎めいた映画、恐ろしい映画と日々格闘している。