ひとしねま

2022.6.17

チャートの裏側:予測不能な柔和と衝動

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)。

相変わらず、邦画アニメーションのにぎわいが顕著だ。新作含め、10本中6本を占める。では、邦画の実写作品はどうだろうか。大手の配給作品の動向は、その都度お伝えしている。大手以外で忘れてはならない作品が、この上半期にあった。「死刑にいたる病」である。

公開6週目の12日、本作を見るために東京・新宿のシネコンを訪れて驚いた。ほぼ満席であった。若い男女が多い。出演している俳優の人気もあろうが、これは明らかに中身に理由がある。途中から、なるほどとうなった。予測不能の話の展開に、ぐいぐい引き込まれるのである。

残虐極まる殺人犯が主人公だ。死刑判決を受けた殺人犯は、拘置所で一人の青年と面会する。ここから、映画は一気呵成(かせい)だ。若い層を引き寄せるのが、サイコサスペンス調の中身にあると思った。怖さと緊張感が見る者の気持ちを揺さぶる。「羊たちの沈黙」を思い出した。

殺人犯を演じた阿部サダヲが、全くもって名状しがたい演技を見せる。穏やかな笑みを浮かべ、柔らかな態度で人と接する。この表情の奥に殺人者の強烈な衝動が潜む。観客は、彼の中の正常と異常の区別がつかなくなる。だから、怖さが幾層倍にも膨らむ。このおぞましさこそが予測不能だった。興行収入は10億円超が見えた。すごい。

死刑にいたる病

志望校の受験に失敗し挫折感を抱える大学生の筧井(岡田健史)は、10代の少年たちを殺害し死刑判決を受けている榛村(阿部サダヲ)からの手紙を受け取る。榛村は表向きは人あたりの良いパン屋で、筧井は幼い頃に常連だったのだ。榛村は有罪とされたうちの1人は自分の犯行ではない、冤罪を晴らしてくれと依頼する。半信半疑の筧井が調べ始めると、自身の母親が施設で育ち、榛村と旧知の仲だったこと、榛村が無罪を主張する1人が、他の被害者と明らかに異なることなどが、次々と分かってくる。櫛木理宇の小説を映画化。

©2022 映画「死刑にいたる病」製作委員会

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