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2023.4.20
「弱者をスクリーンの真ん中に」 「トリとロキタ」ジャンピエール&リュック・ダルデンヌ監督:インタビュー
ジャンピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟監督の「トリとロキタ」が描くのは、移民の少年少女の苦しみと悲しみだ。「かれらのような移民の子供たちは、弱者の中の弱者。自分たちの映画のフレームの中心に置くべきだと考えた」。来日した兄弟監督は、悲惨な現実に無関心を装う社会に憤りを示す。第75回カンヌ国際映画祭で75周年記念大賞を受賞した。
実話ベースにした難民の偽姉弟
アフリカからの船中で知り合った12歳の少年トリ(パブロ・シルズ)と17歳の少女ロキタ(ジョエリー・ムブンドゥ)は、姉弟と偽ってベルギーのリエージュで暮らしている。トリは子供だがしっかり者。ロキタは祖国の家族にお金を送るためにドラッグの運び屋をしている。18歳になってビザがないと強制送還されるので、なんとかビザを取ろうとするがうまくいかず、偽造ビザを手に入れようとより危険な闇の仕事に手を染める。
実際にあった事件がベースになっている。「2人は外国籍の未成年で、同伴者や保護者のいない移民。こうした子供たちがヨーロッパに渡ってきて、闇社会にのみ込まれ、犯罪組織に入って消息が分からなくなっている」。2人は友情があるからこそ生き延びている。「ベルギーで家政婦として働きたいロキタ、学校に行きたいトリ。ただそう願っているだけなのだ」
「トリとロキタ」©LES FILMS DU FLEUVE-ARCHIPEL 35-AVAGE FILM-FRANCE 2 CINÉMA-VOO et Be tv-PROXIMUS-RTBF(Télévision belge)Photos©Christine Plenus.
冒険映画とノワール
映画全般を通して、トリには躍動感があり、ロキタは受動的に描かれている。「トリは障害があっても解決策を見つけられるが、ロキタは若い女性で、男の欲望の対象になり性的虐待も受ける。私たちの中では、トリの身体性には冒険映画のような一面があり、ロキタにはエンディングの描写からフィルムノワールの側面があると考えた」
ダルデンヌ兄弟の話からは、友情がなければ現実に抵抗できないという思いが感じられる。「移民の歴史の中で、子供だけで渡航してくることはなかったと思う。これまでは、まず男性が来て家族を呼んでいた。家族や友人、信頼できる人がいなければその環境に耐えられない。だから、主人公は最初から2人を想定した。家族のような存在が必要だった。2人は光り輝く友情で結ばれていた。この友情は、ロキタがトリに対して自己犠牲を払うまで続く」
ロキタはトリの母親のような存在であり、時には年下のトリがロキタの母親のようになる。「観客はこの姉弟がフィクションであっても、2人のつながりは本当の姉弟よりも強いものだと感じるのだと思います」「劣悪な状況に、強い友情でどこまで抵抗できるかという物語でもある」
ダルデンヌ兄弟作品では「ロルナの祈り」でも移民が主人公だった。ベルギー国籍を取得するために偽装結婚する女性を描いていた。「今回の作品では、主人公の2人は、ベルギーに来て何とか生き残ろうとしている。こうした主人公たちを描くことはこれまでなかった。彼らは18歳になる前で、警察や内務省のレーダーで消息がたどれない状況にある。それに対して社会が何もしていない。私たちがこうした国や社会に生きているのに、人々が無関心でいることに憤りを感じます」
行き場のない移民と極右政権
インタビューへの返答は終始穏やかだが、ダルデンヌ兄弟は明らかに怒っている。移民に対する国や社会、人々の反応に不満を感じている。ヨーロッパの移民の問題は、より悪化しているという認識か聞いた。
「その質問に簡単に答えることは難しい。より良い生活を求めてアフリカなどからやってきて、ビザを取得し、仕事をしている人もいる。だが多くの人はビザが取れず、何年も待っている。彼らはその間、正規の仕事に就くことができない。闇の仕事をするしかなく、搾取されている現状もある」。言葉に少し力が入る。
「ここ5、6年、以前にはなかった現象が起きている。移民がヨーロッパに来ても、行く場所がない。受け入れる施設は増えているが足りず、あふれた人たちが路上生活を強いられている。ヨーロッパでは(移民受け入れに批判的な)極右政権の台頭があって、一部の市民たちは彼らを支持している」
社会のひずみ、虐げられた人たちを物語の中心に据えて、わかりやすく描いてきた。「私たちはなぜ、毎回このような映画を撮るのか。それは、社会から疎外された人たちに呼びかけられているから。彼らの物語を撮りたい、その存在を映画を通して見せたいと思ってきた。社会は彼らを見たがらず、見ないフリをしている。しかし疎外された人たちには言いたいことがある。彼らは正義を求めていて、それを私たちは物語るのです」