「ゴッドランド/GODLAND」のフリーヌル・パルマソン監督=提供写真

「ゴッドランド/GODLAND」のフリーヌル・パルマソン監督=提供写真

2024.4.06

アイスランドの過酷な自然に描いた「人生の謎」「ゴッドランド」フリーヌル・パルマソン監督

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鈴木隆

鈴木隆

「ゴッドランド/GODLAND」は、神秘的で美しい映像体験に息をのむ、アイスランドの映画である。広大な荒野、氷河に閉ざされた湖、噴火する火山とあふれ出るマグマの川など自然の驚異の中を旅するロードムービーの前半、辺境の村で異文化の衝突や、植民地の現実に直面した人間を描く後半。アイスランドのフリーヌル・パルマソン監督は、この物語をなぜ映画にしたのか、どこに心をつかまれたのか。映画作家としての真摯(しんし)な姿勢と発見を語り始めた。

19世紀後半、デンマークの若い牧師ルーカスは司教の命を受け、布教のため植民地だったアイスランドに赴く。しかし、馬に乗り遠い目的地を目指す旅は険しい地形や悪天候に阻まれる、想像を絶する過酷さだった。アイスランド人のガイド、ラグナルともたびたび対立する。瀕死(ひんし)の状態で村にたどり着いたルーカスは、入植者の娘アンナに心癒やされるが、牧師としての理想や信念を失っていた。


抑圧された占領下に人間の原始的姿を描く

前半は目的地までの旅、後半は村での葛藤が軸の2部構成にしたのは「二つのパートが互いにエキサイティングなストーリーを高めあうことができると感じたから」。時代設定をさかのぼり過去にしたのはなぜか。「当時の人の方が、より自然に近い暮らしをしていた。騒音も邪魔になるものも少なく、キャラクターや感情にフォーカスしやすい。もう一つは、当時アイスランドはデンマークの占領下にあり、抑圧されていたからだ。そこには、ミスコミュニケーションや誤解が生じる。人間の原始的なニーズや欲求、つまり感情を描きたいと思っている」

「エキサイティング」とはどこを指すのか、具体的に聞いてみた。「正反対のものがあるとドラマが生まれるしワクワクする。ルーカスは現代的な国から全く理解できない国に移動する。それによって、彼は少しずつ言葉や信仰、健康、存在さえもはぎとられていく。映画の中で彼の経験を描くことができたらと考えた」と話した。

馬も人間も死ぬ、腐る

映画にする意図は人間の本質の一端を見つめるということだったのか。「映画を作る時は、コア(核)になるものはあっても、何かに答えるとか、明確にするといったことから遠ざけようと努力している。人生は謎に満ちていて、映画もそうであってほしいからだ。映画製作者としての自分の役割は、探求することであり、問いかけること。私の映画は観客にとっての〝経験〟であってほしいと願っている」。これがパルマソン監督の映画へのスタンスというのだ。

さらに続ける。映画作りのプロセスでいつも何かしら発見する。どうやって映画を終わらせるかもその一つだという。映画の中で、死んだ馬が草原で腐っていく過程を写し取る。「私たちに共通するのは〝死〟だ。馬もルーカスも、死んで腐る。季節の移り変わりを撮影しながら学んだのは、自分たちは小さな存在だということだった」と振り返った。

この映画は対立や狂気、葛藤などさまざまな感情や関係性をさらけ出す。「人間は、政治のような、社会で大切と思われている大きなことを考えているつもりになっているが、私にとって興味があるのは小さなこと。例えば妬みとか、人を愛することは、どういうことなのか。本作は大きなテーマで始まっているかもしれないが、人間的な小さなところに着地して終わる。小さいことは、実は一番大事なことではないか」

パルマソン監督はアイスランド文学を引き合いにして、核心に触れていく。「アイスランド文学は、登場人物の周りの世界を描くことでそのキャラクターを映し出していく。私も映画でその方法を取り入れた。私たちは、自分たちの周りの世界で形作られているのだと考える」

撮影に2年 時間の経過を探求

主人公を牧師にしたことで感情やコミュニケーションのよどみをより浮き彫りにしたのは確かだろう。「元々、牧師として脚本を書き始めたわけではなく、書いているうちにこうなった。というのは、当時教会は絶対的な権力を持っていて、お金もあった。アイスランド人はデンマークに行くと教会のパワーや権力をものすごく感じていた。今の大企業のようなものだったかもしれない。当時の人々の生活にとって大きな存在であり、アイスランドの牧師にデンマークで学んだ人が多かったことも知った」。もう一つ大きな理由があったという。「自然と正反対のものとしての宗教のありようを考えた。当時は自然を、コントロールするものと捉えていたと思うからだ」

前半で自然の驚異、厳しさを映像で表現したのは人間やその感情を描くのに必要だったからなのか。「少し時代をさかのぼると、人間は気候や地形、多様な元素みたいなもので作りあげられていた。自然が過酷なほど人も荒々しくなる。コントロールできない季節の変動や気候が人間を変えていくことに、興味があった」

そうした自然の撮影に、2年を要した。「VFX(視覚効果)で作りあげるのではなく、実際に撮影していくことが大切だった。自分が季節の移り変わりを経験し、観客にも(その一端を)経験してもらう。この作品も含め、私の映画は時間の経過を探求しているといっていい。映画自体が、時間を扱うメディアだと考えている」

ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

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