「フクロウと呼ばれた男」に主演した田中泯=内藤絵美撮影

「フクロウと呼ばれた男」に主演した田中泯=内藤絵美撮影

2024.5.04

演技には踊りで培った〝身体力〟を加えて 田中泯の二足のわらじ 「フクロウと呼ばれた男」

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勝田友巳

勝田友巳

ディズニー+の配信ドラマ「フクロウと呼ばれた男」で主演する、田中泯。日本を裏から支配する政界のフィクサーという役どころである。すらりと締まった体に鋭いまなざしで底知れぬ権力を感じさせるかと思えば、白髪と柔和な笑顔、ぎこちない動きには、家族を心にかける老境の男の一面ものぞかせる。長く踊り一筋に生きてきたダンサーの演技の基盤は、やはり「体」というのである。


フィクサー 単なる悪ではない

4月下旬に坂本龍一が手がけた舞台「TIME」を終えたばかり。前後して「フクロウと呼ばれた男」の配信が始まった。ダンサーとしても俳優としても、大活躍が続く。「幸せなことに、やってみないかと誘われるのが続いています」。フィクサーではない方の、穏やかな表情で。

「フクロウと呼ばれた男」では、清濁併せのむ政界のフィクサー、大神龍太郎を演じた。脚本はアジアで映像製作、配給を手がけるデビッド・シン。「日本の政治はスマートさがない。かっこ悪い。辛辣(しんらつ)に描いていると思いますよ。今も渦中にある政治の混沌(こんとん)に対して、これでいいのかと。フィクサーが暗躍するのは、日本に限ったことではないのでしょう。単なる悪ではない、必要でもある。マジシャンや占師に相当するのかもしれない。アジアには特に多いのではないかな」

次期総理大臣候補の息子の死をきっかけに、権力闘争が噴出。龍太郎はひそかに事態の収拾を図るものの、彼の子どもたちの周辺にも問題が続出、窮地に追い込まれてゆく。「現代の政治は底なしだから、全てを描ききることはできないにしても、しっかりとつかんでいるという感じはします。物語は後半、意外な展開になりますので、お楽しみに」。フフフと含み笑い。

作品の中の自身を見て「踊りまくってる時とはまた違う体に、完全になっているなと思いました」と言う。「龍太郎がどういう仕事をして晩年に至ったか、自分なりに空想しながら演じないといけない。もつれた歩き方をするなどいろいろと、意識せずにそうなったところもあるんですよ」


「フクロウと呼ばれた男」@2024 Disney

協働して作り上げる映画に魅力

1964年からクラシックバレエを習い、モダンダンサーとして活躍。しかし日本のダンス芸術界の有りように疑問を抱き、74年、独自の舞踊に取り組み始めた。それはなにものにもとらわれない「ハイパーダンス」となり、世界中の劇場で、路上で、踊ってきた。

俳優デビューは2002年、山田洋次監督に請われて出演した「たそがれ清兵衛」だった。上意討ちを命じられた真田広之演じる主人公と戦う、老練な剣客。堂々たる立ち姿に迫真の気合が漂い、江戸のサムライが画面にいた。この演技でキネマ旬報ベスト・テン新人男優賞などを受賞、以降はダンサーと俳優、両輪の活動が続いている。

「初めてお芝居した『たそがれ清兵衛』で、作品を作り上げていくプロセスそのものに感動しました。踊りは非常に孤独な作業ですが、映画はみんなが力を合わせることで、深く大きく、高度になっていく。協働性に魅力を感じました。そこから〝二足のわらじ〟がいいかもしれないと、思い始めたんですね」

なんでも演技できるとは思っていない

映画では「メゾン・ド・ヒミコ」(05年)のゲイバーのママ、「HOKUSAI」(21年)の葛飾北斎、「PERFECT DAYS」(23年)では踊る男。硬軟剛柔、幅広い。ただ「何でも演技できるとは全く思ってないんです」と明かす。役者としてのキャリアも20年を超えるが「身についたことは、ないんじゃないかな、ほんとに深い仕事だと思います」と謙虚に語る。

「映画に出るのはすごい体験だと思います。『あ、そうか』と分かることが毎回1、2度あります。自分の持ち駒で芝居をするなんて、とんでもない。何も持っていないに近い気持ちでやらないと、損するなと思いますね」。役は自身に引きつけて選ぶようだ。「自分も運命のいたずらで、こういう人になっていたかもしれないなと思うような役を、やらせてみてくださいと。それがずっと続いています」

演技の入り口は自身の体だという。「踊りしかやらずにきた人間が、57歳になって俳優をやるようになった。俳優を目指して生きてきた人たちに追いつくには、踊ってきた自分の体との付き合いから入って、演技力に〝身体力〟を付け加えてあげないと」


日本は踊り大国 知ってほしい

1人で臨む舞踊と、脚本があり監督がいる映画とは「別物」であり「共通する」という。「踊りはものすごく間口が広い。道具はいらないし言葉すら必要としない。場合によっては音楽がなくても成立する。何も使わないでできる唯一の表現なんです」。一方、演技は「脚本から何が望まれているかを読み解き、監督とテストしながら一体化していくこと」。

そして「相互に影響している」と分析する。「踊りの中に、鮮明なキャラクターが入り込んでくることがあります。『TIME』では舞台で1人踊りをしていた間に、女性になったり肉体労働者のようだったり、プログラムしたわけではなかったけれど、踊っている最中に変化していくことがしばしばありました」。一方で映画「PERFECT DAYS」の撮影では、ビム・ベンダース監督から「ここで木になって踊って」と突然指示され、「『はい、分かりました』と数分後にはもう踊っていました」。「日本には踊り出すということが普通に文化の中にあるわけですから、そういうシーンが映画にあってもおかしくないと思いますけどね」

そして、結局は踊りに戻ってくる。「日本は踊り大国だと思っています。『心が躍る』といった表現は、外国語にないでしょう。いろんな時代の踊りが、各地方に芸能として残っている。そんな国は日本だけ。他の国では残っていても特定の地域だし、しかもほとんどが権力者にからんでいる。日本は、歌舞伎もそうですけれど、下層階級から生まれたものが山ほどあります。そのことを分かってほしいと思います」。口調に熱がこもった。

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

内藤絵美

ないとう・えみ 毎日新聞写真部カメラマン

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