「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」© 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

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2023.12.05

「ティモシー・シャラメはマグネティックで特別な若手」 「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」 ポール・キング監督インタビュー

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勝田友巳

勝田友巳

「映画館を出る時にちょっとでも前向きになってくれたら」と願うのは、「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」のポール・キング監督だ。ロアルド・ダール的世界を新たに創造し、若手スターのティモシー・シャラメからミュージカルの才能を引き出した。「ティモシーには人を引きつける力がある」と手放しの絶賛である。

 

偉大な古典の世界を再創造

「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」は、英国の作家、ロアルド・ダールの代表作「チョコレート工場の秘密」の前日譚(たん)。ダールは続編「ガラスの大エレベーター」を残しているが、この前日譚はキング監督らのオリジナル脚本だ。ダールの著作権継承団体とワーナー・ブラザースが「ウォンカの世界を膨らませた作品を」と企画したが開発が難航、「パディントン」とその続編をヒットさせたキング監督に回ってきた。「ダールの新たな物語を創作するのは素晴らしい体験だった。ダールは偉大な物語の作り手だし、『チョコレート工場』も古典的名作。エキサイティングな大仕事だった」
 
「チョコレート工場の秘密」は、1971年に「夢のチョコレート工場」として、2005年には「チャーリーとチョコレート工場」として映画化されている。ティム・バートン監督による05年版ではジョニー・デップがウォンカを演じ、バートン監督のダークな味わいとダールの毒気が融合して大ヒットした。ただ、キング監督が意識したのは71年版だったという。ダール自身が脚本にクレジットされ、メル・スチュアート監督、ジーン・ワイルダーがウォンカを演じている。こちらはミュージカル仕立て。
 
「ミュージカルで、と言い出したのは私だったと思う。71年版と〝姉妹編〟にしたかった」。歌と踊りが盛りだくさん。映像技術が進化した分、71年版よりもさらに華やかだ。そして謎の小人、ウンパルンパ。緑の髪にオレンジの肌、「ウンパ、ルンパ、ドゥンパディ、ドゥ……」という耳に残る歌は、71年版の踏襲だ。「あの歌は不滅だね」と笑う。


ポール・キング監督

毒気たっぷりでも「実は感動的」

さて、「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」は、若き日のウォンカが世界一のチョコ職人になる夢を追う物語。発明家でマジシャンでもあるウォンカは、不思議で楽しいチョコを次々と生み出すが、がめつい宿屋の女主人や無情で意地悪なチョコ組合の有力者に邪魔される。憎まれ役はいかにも〝ダール的〟人物たちだ。
 
キング監督は「ダールの作品は子どもの頃から何度も読んでいたけれど、改めてできる限りを読んでみた。彼の書く物語はワイルドでアナーキーでおかしくて、グロテスク」。守銭奴の宿屋を「スクラビット」と名付けたのも、「ダール作品のバカげた名前も大好き」だったから。しかし、ダール文学の本質は別にあると気づいた。
 
「実は、とても感動的なんだ。『チョコレート工場の秘密』のチャーリーは貧乏で、家族は飢えて苦しんでいる。最後にウォンカから工場を引き継ぐところでは、涙があふれた」。ダールの魅力は豊かで独創的な発想だけでなく、感情を深く動かすところにもあると強調する。「この映画でも、ウォンカを突き動かすのは亡き母親が作ったチョコの味を再現しようとすることだ」


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ティモシーの歌と踊り Youtubeで確認

若き日のウォンカを演じるのはティモシー・シャラメ。「君の名前で僕を呼んで」(17年)以降破竹の勢い、若手の筆頭格だ。キング監督もこの作品で注目した。この時は「彼の演技の力なのか役にはまったのか、見極めがつかなかった」というものの、続く「レディ・バード」(17年)、「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」(19年)を見て「全く違った役を演じていて、これは本物だと確信した。いつかは一緒に映画を作りたいと考えていた」。
 
ウォンカ役にとすぐに思いついたが、問題はミュージカルパート。「果たして歌って踊れるか……」。その心配も、高校時代のシャラメがミュージカルで演じている動画をYoutubeで見て一気に解決。「21世紀でよかった。私の高校時代なんて、時のかなたに消えているよ」
 
「撮影現場では、彼に大いに助けられた」とキング監督。振り付けがありカメラワークも決められているから、感情を込めて演技をしつつ正確な動きを意識しなくてはならない。「両方を求められるのは俳優にとっては大変だけれど、彼はカメラを常に気にしながら説得力と真実味のある演技をしてくれた。彼も、歌と踊りを披露できてよかったと思っているんじゃないかな」


怪演ヒュー・グラントは「バカげたことが大好き」

ウォンカのチョコレート工場に、ウンパルンパは欠かせない。ウォンカがウンパランドから連れてきた小人は、小説でも映画でもチョコレート作りに精を出していたが、今作ではある因縁からウォンカのチョコを盗もうと付け狙う。演じているのは英国きっての二枚目、ヒュー・グラントだ。寸詰まりの姿で気取った英国アクセントで話す。「ウンパルンパはケチで皮肉屋でナルシスティック。ヒューは偉大な役者なのに、バカげたことをするのが好きなんだ。よく大笑いしたよ」

目指すはフランク・キャプラ

キング監督の出世作は、英国で人気のクマを実写映画化した「パディントン」とその続編。愛すべきクマの奮闘と家族のストーリーをファンタジー色豊かに描いた心温まる映画だった。その作風は今作も変わらない。
 
「映画館を出る時、入った時よりちょっとでも良い気分になってほしい。特に家族向けの映画では子どもたちに希望を与えたい」と心構えを語る。「フランク・キャプラ監督の大ファン」という。キャプラは1930~60年代のハリウッドで、「或る夜の出来事」「スミス都へ行く」などヒューマニズムあふれる感動作を残した。「登場人物は苦労するけれど、最後は希望が芽生える。彼らと一緒にがんばったら、世界を少しでもよくできるんじゃないかと思えるようなね。それを目指したい」
 
そして映画の効用について「人と人を結びつけること」と話す。「家のモニターがどれほど大きくなろうとも、そして家ならスマホをいじりながら見られるとしても、感情を分かち合う映画館の魅力は代えがたい。映画館では何のつながりもないバラバラの人たちが一時感情を共有して、また分かれていく」。若きウォンカは、守銭奴の宿屋にだまされてこき使われる少女たちと仲間になり、協力し合って夢をかなえる。「この映画と通じているよね」。穏やかに語るのだった。

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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