「劇場版 再会長江」の竹内亮監督=諸隈美紗稀撮影

「劇場版 再会長江」の竹内亮監督=諸隈美紗稀撮影

2024.4.15

フォロワー630万人の日本人監督が撮った 中国の10年「再会長江」

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諸隈美紗稀

諸隈美紗稀

ドキュメンタリー「劇場版 再会長江」の竹内亮監督は、中国で有名な日本人の1人。日中を題材にしたドキュメンタリー作品を配信し、再生回数が6億回に及ぶシリーズも。SNSのフォロワーは600万人以上。「再会長江」は、約10年前のある後悔をきっかけに、全長6300キロの長江沿いに住む人々との再会と、新たな出会いを記録した。作品からは、この間の激動する中国が浮かび上がる。竹内監督は「ミクロの視点から中国のリアルな日常を知ってほしい」と語る。


チベットの少女のその後追う

元々、日本の番組制作会社でドキュメンタリー監督や番組プロデューサーとして、「世界遺産」(NHK)や「ガイアの夜明け」(テレビ東京)などを手掛けてきた。2011年に本作の元になる「長江 天と地の大紀行」(NHK)を制作。長江をテーマにした紀行ドキュメンタリーを撮る中で、1人の少女と出会った。地上の楽園と呼ばれる雲南省シャングリラで暮らすチベット族のツームー(当時18歳)だ。地元しか知らず、地下鉄にも乗ったことがないツームーを、家族と一緒に大都市・上海へ連れて行き、外の世界を初めて目にした瞬間を撮った。

だが、竹内監督はこの時、中国語が話せなかったため、納得のいくインタビューができなかったという。取材交渉もコーディネーター任せで、悔いが残るものだった。「もっと深いものを撮りたい」。そう決意し、13年に家族と中国・南京に移住して自ら映像制作会社を設立。そこまでこだわったのは「純粋な彼女の変化から中国の今が見えるだろうと思ったから」と明かす。当時、「空には飛行機の道はないの?」「100階建ての建物なんてあり得ない」と言っていたツームー。新しい世界を目にした後、どう成長し、どう変わったのか。本作ではツームーと再会するとともに、「外の世界」に行くことに反対していた叔父の今の思いも明かされる。


「劇場版 再会長江」©2024『劇場版再会長江』

上海から「源流の最初の一滴」へ

旅は上海に始まり、南京、武漢、重慶、雲南と続き、最終的にはチベット高原にある「長江源流の最初の一滴」を撮ることを目指す。11年に出会った、長江を行き来する貨物船の船長や、母系社会の伝統が受け継がれる集落に住む女性との再会も果たす。10年前の映像を織り交ぜることで、社会や価値観の変化が見える。

竹内監督が自ら登場し、監督の視点で進行する。この手法は中国で仕事を始めた時から続けている。移住当時、「肩書」が無い状態で仕事をするには、自分を知ってもらうしかないと考えた。有名俳優が出演しないドキュメンタリーにも良い作品がたくさんあるのに、関心が低いことも残念だった。監督として有名になることで、多くの人に作品に興味を持ってほしいとの理由もあるという。

これまでに、新型コロナウイルスによるロックダウン(都市封鎖)解除直後の武漢を映した「お久しぶりです、武漢」や、中国通信機器大手ファーウェイの社員らを取材したドキュメンタリーなどを配信。21年にはNewsweekの「世界が尊敬する日本人100」に選出され、Weibo(微博)の旅⾏関連インフルエンサーランキングで1位(23年1⽉時点)になるなどインフルエンサーとしての顔も持ち、個人のSNSのフォロワー数は630万人に上る。


コロナ禍だからこそ撮れた大自然

撮影は21年から2年間かけ、インタビューした人は20~30人に及んだが、この間はコロナ禍との闘いでもあった。感染者が出た地域は封鎖されるため、スケジュールの変更を何度も余儀なくされ、心が折れそうになったこともあるという。

だが、だからこその絶景が撮れた。水墨画でも描かれ、三つの峡谷からなる三峡地区や、鏡のような水面が青空を映し出すロゴ湖、ツームーの住むシャングリラなどが、圧倒的なスケールで映し出される。「コロナ禍だからこそ、人の全く映っていない原始的な風景が撮れました。今は観光客や船だらけです」と話す。

「今の日本では職場や学校、観光地で中国人がより身近になっているけれど、皆さんが知っている中国は断片的。今の中国へのイメージをアップデートしてもらえたら」。そんな願いを込めている。5月下旬には中国本国で1万館以上の映画館での上映が決定している。

ライター
諸隈美紗稀

諸隈美紗稀

もろくま・みさき 毎日新聞記者。1995年福岡県生まれ。映画「ちはやふる 結び」にエキストラ参加したことがある。

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