「エージェント・エルヴィス」より COURTESY OF NETFLIX © 2023

「エージェント・エルヴィス」より COURTESY OF NETFLIX © 2023

2024.5.20

プレスリーがスパイになったら⁈ ファン必見! 史実を織り交ぜたアニメシリーズ「エージェント・エルヴィス」

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

村山章

村山章

2022年にはバズ・ラーマン監督の「エルヴィス」が、今年はソフィア・コッポラ監督の「プリシラ」と2本の伝記映画が公開された。前者はロックンロールのキングことエルヴィス・プレスリーの短くも激しい42年の生涯が、「プリシラ」では10代でエルヴィスに見初められた妻プリシラ・プレスリーが、白昼夢のようなセレブ生活の中で自己を見いだしていく成長物語が描かれており、ひとつの大きな物語を別々の視点からのぞくことのできるカードの表と裏のような作品だったといえる。

そんな2本の映画の合間の23年に、なんとエルヴィスを主人公にしたアニメシリーズが発表されていた。Netflixで配信されている「エージェント・エルヴィス」だ。プリシラが自分自身の役で声優として参加、オスカー俳優のマシュー・マコノヒーがエルヴィスの声を演じている。またプリシラは共同クリエーター、製作総指揮にも名を連ねており、作品をエルヴィスとの一人娘リサ・マリー・プレスリーにささげている。
 

娘リサ・マリーにささげられた、アクションコメディー

リサ・マリーは23年1月に早世しており、亡き娘にどんな作品をささげたのだろうと思ったら、読んで字のごとく「エルヴィスがスパイ組織のエージェントになって悪に立ち向かう!」という荒唐無稽(むけい)なアクションコメディーであることに驚いた。

劇中のエルヴィスは、多忙なスター稼業だけでは飽き足らず、国家や正義のために役立ちたいと勝手に自警団活動をやっていたところ、「TCB」なる政府の極秘組織にスカウトされてスパイになる。
 
最初のエピソードは、長年ライブ活動から離れていたエルヴィスが完全復活をアピールしたテレビ特番、通称「’68カムバック・スペシャル」の舞台裏で、実在のカルト集団マンソン・ファミリーと戦うというもの。
 
ほかにもアポロ11号の月面着陸に関わったり、悪名高いオルタモントのフリーコンサートに潜入したり、エピソードごとに1960年代から70年代の歴史的事件が絡められている。

全編に不謹慎なギャグがちりばめられたシュールな語り口だが、エルヴィス本人が少年時代からアメコミヒーローに強く憧れており、アニメという形でヒーローになる夢をかなえてあげた亡きエルヴィスへのプレゼントにも思えてくる。
 

魅力も欠点も含めたプレスリーをキャラクター化

ただ、見進めているうちに、決してフザけただけの作品ではないことに気づく。エルヴィスはどんな時でもみごとに髪形がキマったスーパースター兼スーパースパイという現実離れしたキャラだが、細かいディテールがいちいち本物のエルヴィスとリンクしているのだ。

スキャターという暴れん坊のチンパンジーを飼っているのも実話通りだし、時の大統領ニクソンにアポなしで会いに行き「麻薬捜査官になりたい」と言ったエピソードも本当にあった逸話。
 
得意技のカラテはエルヴィスの趣味だったし、正義感は強いが保守的でヒッピー嫌いという性格も実際に伝わっている通り。エルヴィス(と当時の音楽業界)が黒人音楽を盗用したという批判もしっかり織り込まれ、家庭を顧みなかったことでプリシラが空手の先生との浮気にはしり、やがてエルヴィスのもとから去っていった夫婦間の問題までさらりと匂わされている。

つまり、エルヴィスをアニメヒーローにした子供向けの作品かと思いきや、エルヴィスの実人生とアメリカ現代史をさかなにした、凝りに凝った現実のパロディーなのだ。もちろんプリシラにも、共同クリエーターでエルヴィスの大ファンだというジョン・エディにも、エルヴィスをおとしめる意図はない。リスペクトした上で、きれい事に終始するのでなく、魅力も欠点も含めたエルヴィスの姿を戯画化しているのである。

残念ながら当初予定されていたシーズン2はキャンセルされてしまったのだが、正直ストーリー自体はナンセンス極まりなく、続きがあってもなくても大差ない気がしている。むしろ実像と虚像をないまぜにした型破りな2次創作として、エルヴィスのファンや映画「エルヴィス」や「プリシラ」をご覧になった方には一見の価値アリですよとお伝えしておきたい。
 
「エージェント・エルヴィス」はNetflixで独占配信中

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ライター
村山章

村山章

むらやま・あきら 1971年生まれ。映像編集を経てフリーライターとなり、雑誌、WEB、新聞等で映画関連の記事を寄稿。近年はラジオやテレビの出演、海外のインディペンデント映画の配給業務など多岐にわたって活動中。

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