アニメーション映画賞 伊藤瑞希=山田尚弘撮影

アニメーション映画賞 伊藤瑞希=山田尚弘撮影

2023.2.07

アニメ映画賞 「高野交差点」伊藤瑞希 独学、1人で作った6分半の人間模様

毎日映画コンクールは、1年間の優れた映画、活躍した映画人を広く顕彰する映画賞。終戦間もなく始まり、映画界を応援し続けている。第77回の受賞作・者が決まった。

ひとしねま

倉田陶子

初めて監督した「高野交差点」は6分半の自主製作作品。「賞をいただいたことは素直にうれしかったです。でも、もうびっくりというか。すごく不遜な言い方になるんですけど、いただけるとしたら大藤信郎賞なのかなと思っていたので、この賞は本当に意外でした」と、照れたような笑みを浮かべた。
 

 

一瞬だけすれ違う3人の物語

舞台は京都に実在する交差点だ。主要な登場人物は、息を切らせながら校外を走る部活中の女子中学生、険しい面持ちでバス停にやってくる男性、一心に自転車をこぐ幼い少年の3人だ。普段なら互いのことを気にもかけないであろう彼らの人生が、ある出来事によって交差する一瞬を切り取った。
 
製作のきっかけは、脚本を手がけた中田秀人だ。中田自身、ストップモーションアニメの監督で、第64回毎日映コンで「電信柱エレミの恋」で大藤信郎賞を受賞した実力派。専門学校で中田の授業を受け、卒業後も交流が続いている。
 

「高野交差点」©2021 Mizuki Ito

大藤賞作家の脚本を元に

2016年2月、中田から今作の原案となるエピソードを聞かされた。実は、中田自身が実際に高野交差点で似たような光景を目撃していた。「中田さんがストップモーションとこの題材は合わないと判断されて、私に『やらへんか?』と白羽の矢が立ったんです」。脚本を読み、「これはちゃんと成立する作品だ。自分の絵の雰囲気とギャップもない。きっとうまくいく」と直感した。
 
3カ月ほどで企画が具体的に動き始めた。まずは、一つ一つのシーンを「3人のうち誰のためのシーンか」と分析し、想像を膨らませた。キャラクターデザインと平行し、高野交差点のロケハンもした。
 
他の仕事の合間を縫いながら、製作はゆっくりと進んでいった。30ページほどの絵コンテが出来上がるまで、3年ほどかかった。「なかなか出口が見えなくて……。でも、中田さんから託していただいたという思いが強くあったので、途中で投げ出したくなったことは一度もなかったですね」


 

音響も独学し完成まで1年

20年春、映像はほぼ仕上がり、音響作業が始まった。「音については完全に素人。基本的な勉強をしないとあかん」と、図書館で音響編集の入門書を借りて基本的な知識を身に付けた。
 
街中で聞こえてくる人々の何気ない会話や交差点を行き交う車の音など、目を閉じればその場にいるようなリアルな音を実現させた。交差点で実際に収録した音も使い、自分で音を作り出すことにも挑戦した。「ちゃんとしたスタジオを持ってるわけでもないし、レンタルする予算もない」と、比較的静かな平日の昼間に、自宅の部屋を閉め切り、服をこすってきぬ擦れを録音した。何度もとり直しを重ね、1年かけて完成にこぎ着けた。
 

高校中退し「絵を描いてみよう」

絵を描き始めたのは17歳のころ。理数系の高校に在籍していたが、「何かが合わなくて、別のことをしてみたい」と思うようになった。休学し、自宅で絵の練習を始めた。
 
「何か描いてみよう」という軽い気持ちだったが、「ほんまに下手やな」と自覚する毎日。でも、「10年真面目にやってみて、駄目だったらその時やめればいい」と思い直した。絵を描き始めたばかりの自分が「才能なんてない」と決めつけ、簡単に投げ出すのは無責任だと感じた。「10年というのはただの区切り。食いぶちも稼がず、絵ばかり描いていられる環境だったことを親には感謝しています」
 
その後、高校には通わないまま、独学で1年半、絵を描き続けた。「それなりに頑張ってやっていると、描けるようになったという手応えも出てきました」。一方、自活するため手に職をつける必要性を感じ、デザイン系の専門学校へ入学した。
 
商品の包装デザインやソフトウエアの使い方などを学んだが、「そんなに熱心にやっていたわけではないんです」と振り返る。絵を描き続ける中で、「どうして動いているんだろう」とアニメーションの技術に興味が湧いていた。
 
絵と同じように独学を始めたが、学校で唯一、アニメーション関係の授業を担当していたのが中田だった。ストップモーションが専門の中田とは目指す領域が違うものの、「作品を作るとはどういうことなのか、製作に対する姿勢も含めて大きな影響を受けました」と振り返る。
 

一瞬の重みを感じてほしい

商業アニメーションに参加することもあるが、「職業としてアニメーターになりたいとか、日本のアニメ産業に就職したいという気持ちはないんです」と明かす。絵もアニメーションもほぼ独学で身に付け、「自分でやって、それで済んじゃう」という感覚があるからだ。
 
「高野交差点」では時間の流れを重視した。「6分半の出来事を観客が同じスピードで見させられることが必要で、同じ話を小説や漫画で読むのとは一瞬の重みが違ってくると思うんです」


 

自分が満足する作品を

作品への反響はうれしく受け止めているが、大事なのは「無知のベールをかぶった自分」が満足するかどうか。「名前や顔を知らない無数の観客を想像するのは難しくて。自分が作ったという記憶を全部なくして、何も知らない状態で見たときにどう感じるか。その観点からすると、それなりに成功したと言っていいと思います」
 
作画したものが動いて見える。アニメーションの基本におもしろさを感じている。さらに、今作では「アニメーションという形式だからこそ、伝わる物語のあり方が存在する」と実感した。「これからも、それを見つけていければいいなと思っています」

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ライター
ひとしねま

倉田陶子

くらた・とうこ 毎日新聞記者

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