ザ・バットマン  © 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

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2022.3.11

この1本:ザ・バットマン 悪を討つ正義の深い闇

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

再起動のたびに暗くなるバットマン。クリスチャン・ベール主演の前シリーズも暗かったが、今作は間に挟んだ「ジョーカー」の闇に引き込まれたように、内容も画面も真っ暗。ロバート・パティンソンのブルース・ウェインは陰気な表情でニコリともしない。派手で迫真のアクションは上がる一方だが、バットマンの苦悩は深まるばかりだ。

幼い頃に両親を殺された大富豪のウェインが、スーツを着たバットマンとなって2年目という設定。夜な夜な悪を退治し、両親を殺した犯人を捜す。そんな折、ゴッサム市長が殺された。事件現場には犯人リドラーからバットマンに宛てたナゾナゾが残されて、どうやら市の再開発を巡る腐敗が絡んでいるらしい。一方、夜ごと黒いスーツを身に着けて失踪した友人を捜すカイル(ゾーイ・クラビッツ)が、バットマンの前に現れる。

画面は土砂降りの夜ばかり。ゴッサムの街は持たざる者の不満と恨みに満ち、リドラーの手口は残忍で容赦ない。バットマンのトラウマや破壊衝動はこれまでのシリーズでもおなじみで、その内面の葛藤と、正義の在りかを問うのは変わらぬテーマだろう。しかし今作のウェインは狂気スレスレ。自ら「復讐(ふくしゅう)」と名乗り、恐怖で悪を震え上がらせる。街を救うのは自分だと、憎しみと力で敵をたたきのめそうとする。

もちろん力による正義はさらなる暴力を生むし、大金持ちのウェインが憎悪される側であることも示される。さらにウェイン家の秘密が明かされて、バットマンも安全地帯にいられなくなる。

絶望と恐怖、それに孤独。リドラーと同じ闇を抱えたウェインが自分と向き合うまでが、この第1作。重苦しい長丁場はくたびれるものの、安易な正義を封じた新シリーズ、今後も気になる。マット・リーブス監督。2時間56分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(勝)

異論あり

アメコミものに愛着がない筆者の鑑賞前の印象は「また再起動?」。「ダークナイト」3部作があるのだから、バットマンならなおさらだ。しかし今回は、忘れ去られていた探偵/バットマンをよみがえらせて過去作と差別化し、映像の様式もフィルムノワールに振りきった。犯罪現場にズケズケと乗り込んでゴッサム市警に迷惑がられ、ナゾナゾ好きのリドラーに翻弄(ほんろう)されたバットマンが、自らの病的な一面や不都合な真実に苦悩する話もとことん暗い。3時間に迫る本編はいかにも長いが、終盤の急展開が圧巻で、次回への期待感も残る。(諭)

ここに注目

バットマンシリーズは初めて見たが、主人公の過去や背景がきちんと描かれ、物語にすんなりと入り込むことができた。汚職がはびこり、貧富の差が広がる街の様子は決して絵空事ではない。権力者ばかりを狙った事件は、弱く虐げられてきた人たちによる逆襲なんだと感じた。パティンソンは、トラウマに苦しむウェインと悪に立ち向かおうともがくダークヒーローを繊細に演じ分けている。毒をもって毒を制することが簡単に許されていいのだろうか。そう考えると、正義だけでは語れないバットマンが抱える大きな矛盾が伝わってきた。(倉)

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