「我が人生最悪の時」 (株)フォーライフミュージックエンタテイメント

「我が人生最悪の時」 (株)フォーライフミュージックエンタテイメント

2023.7.27

ハードボイルドというロマンに満ちた探偵映画「私立探偵 濱マイク」シリーズ30周年記念で4Kに!

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

及川静

及川静

テーマソングを聴いただけで、記憶が蘇(よみがえ)る映画が日本にどのぐらいあるだろうか?
めいな Co.による「濱マイクのテーマ」を聴くと、映画館で「私立探偵 濱マイク 我が人生最悪の時」の予告を見た日のことをまざまざと思い出す。
 

テーマソングから挑発的な林海象渾身(こんしん)の探偵映画

挑発的なジャズのメロディーが聞こえた瞬間、古めかしい横長サイズの「シネマスコープ」の画面に引き付けられた。すると、うねるようなドラムのリズムが心をかき立てる「ジャングルサウンド」と共に、モノクロの映像の中に「私立探偵 濱マイク」の物語が綴られていく。横浜の黄金町にある映画館・横浜日劇の2階に事務所を構える永瀬正敏演じる濱マイク。女に弱く、情にもろい、困った人を放っておけないお人よしタイプだが、親に捨てられた過去があり、少年時代は「狂犬マイク」と呼ばれるほど荒れていた。しかし、日劇の支配人や関内に探偵事務所を構える宍戸錠など、いい大人たちとの出会いが彼を変えたらしい。今は11歳年下の妹を探偵で稼いだ金で大学に通わせるために日夜励んでいるが、万年金欠状態の男だ。

「遥かな時代の階段を」
 

正義感が強く、お人よしの濱マイクが見るものを魅了する

映画第1弾「我が人生最悪の時」では、そんな彼が台湾人の男の兄を探すことになり、これがマイクを面倒な事態に巻き込んでいく。どうやら、その兄がマフィアの抗争に絡んでいるらしいのだ。おまけに、昔からマイクを目の敵にしている刑事の中山(麿赤兒)にも手出し無用とくぎを刺されるが、自分と境遇の似た男の兄弟を見つけてあげたい一心で、鑑別所時代からの連れである星野(南原清隆)の手を借りつつ、調査を進めていくのだった。ギャンブル好きでちょっと頼りないところもあるが、正義感が強く、仲間を裏切らない濱マイク。どんなピンチに陥ろうとも決して体制にのまれず、大切な人のためなら危険もいとわない。青臭さがあるが、だからこそ信用できる。
 

おしゃれでカッコいい濱マイクは、永瀬正敏のハマり役

まだ20代後半だった永瀬正敏は、そんな濱マイクにぴったりで魅力に満ちあふれていた。加えて、濱は存在の全てがおしゃれでカッコよかった。レトロな本物の映画館、愛車のクラシックカー「ナッシュ・メトロポリタン」、テーマ曲の「濱マイクのテーマ」、ジャズメンのような少しオーバーサイズのスーツと柄シャツ、革ジャン、アクセサリーとサングラス…。そのスタイルは一見キャッチーだが着こなすのは相当難しいはずで、ファッション性も唯一無二だった。
 

各所に盛り込まれたリアルな探偵術

「私立探偵 濱マイク」シリーズは最高にクールな映画だが、その根底にはしっかりとした探偵技術が隠されていた。監督の林海象は映画を撮る前に1953(昭和28)年創設の歴史ある「日本探偵協会」に入学し、法律知識や探偵学、尾行や張り込み、聞き込みなどの探偵術を学んだという。その後も協会発足者の児玉道尚氏は林海象監督の熱意に触れ、実際に使用している探偵道具を映画の小道具として貸し出し、時には永瀬の演技指導も行ったという。また、探偵術はセリフの言い回しにも生かされているそうなので、2度目、3度目に見る際にはそこに注目してみてもよいのではないだろうか。

「罠 THE TRAP」
 

回を重ねるごとに増すハードボイルド感

濱マイクは事件の調査を通して、少しずつ大人になっていく。第2弾「遥かな時代の階段を」では自らの出生の秘密に迫り、第3弾「罠 THE TRAP」では恋人が襲われた事件の容疑者にされた上に大切な人を失ってしまう。ダメさ加減はそうそう変わらないが、現実を突きつけられることで徐々に青臭さが薄れ、男としての渋みが加味されていき、回を重ねるごとにハードボイルド感が増していくのだ。今回、製作30周年を記念して、フィルムで撮影された3部作が4Kデジタルリマスター版で蘇るという。テーマソングを劇場で初めて聴いた日の興奮をまた味わえるのかと思うと、胸が高鳴るばかりだ。
 
7月28日(金)から3部作各3週間限定で公開

ライター
及川静

及川静

おいかわ・しずか 北海道生まれ、神奈川県育ち。
エンターテインメント系ライター
編集プロダクションを経て、1998年よりフリーの編集ライターに。雑誌「ザテレビジョン」(KADOKAWA)、「日経エンタテインメント!海外ドラマ スペシャル」(日経BP)などで執筆。WEBザテレビジョン「連載:坂東龍汰の推しごとパパラッチ」、Walkerplus「♡さゆりの超節約ごはん」を担当中。

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