毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.1.07
特選掘り出し!:「Swallow/スワロウ」 すさまじい衝動と抑圧
新年早々、あっと驚く変化球である。主人公は富豪の御曹司と結婚し、初めての子を身ごもった若く美しいブロンドの女性ハンター(ヘイリー・ベネット)。豪邸での優雅な暮らしを手に入れたものの、夫や義父母に軽んじられる彼女の孤独な日常を描く。
凄(すご)いのはここからだ。ハンターは心の空洞を埋め合わせるようにして、ガラス玉や金属片などの異物をのみ込み始める。激痛に襲われても、不思議な充足感を得られるその衝動を抑えられない。やがてハンターは、カウンセラーに自らの悲惨な生い立ちを告白する。
新人のカーロ・ミラベラ・デイビス監督は、簡潔かつ洗練されたショットを積み重ね、主人公の〝のみ込む〟行為を危ういサスペンスとエロティシズムをにじませて映し出す。それだけで目がくぎ付けなのだが、意外な急展開へとなだれ込む後半、ハンターの傷ついた内面に迫る本作は、理不尽な抑圧に苦しむ女性の肖像を浮かび上がらせていく。破滅的な結末をするりと回避し、再生と解放を表現したアイデアの斬新さにも愕然(がくぜん)。これは変化球どころか、見る者の胸をえぐる魔球のごときフェミニズム映画なのだった。1時間35分。東京・新宿バルト9、大阪・梅田ブルク7ほかで公開中。(諭)