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2022.9.08
「菅田将暉の号泣シーン、泣く泣くカットしました」 「百花」初日舞台あいさつ
「百花」の公開初日舞台あいさつが9日、東京・TOHOシネマズ六本木で行われた。主演の菅田将暉と原田美枝子、共演した長澤まさみと永瀬正敏、川村元気監督が登壇した。満席の観客を前に、登壇者は口々に「映画館に見に来てくれてうれしい、ありがとう」「こんなにお客さんがいるのが夢のよう」。川村監督は「映画館で見てもらうためにがんばった」と感激の面持ち。
「男気があって頼れるいいヤツ」
あいさつは撮影中のエピソードから。息子役の菅田の印象を聞かれた原田は「撮影中はどんな人かと思う余裕がなかったけれど、映画の宣伝をする中で『いいやつだなあ』と。真剣にいい作品を作ろうとしているし、男気があって頼れる」とべた褒め。一方菅田は、認知症の母親を介護する役で、「会話が成立しないお芝居がほとんど。次はほんわかしたコミュニケーションがあるお芝居でご一緒したい」。
川村監督が、自身の祖母との体験を基にした物語だ。「祖母は好きなお菓子とか好きだった男の人とか、余計なこと忘れて大切なものだけが残っていった。それを映画にしたかった。公開を迎え、お墓に報告に行けるなと思っています」
認知症になり記憶を失っていく百合子(原田)と、百合子を介護する息子の泉(菅田)が最後の日々を過ごす。百合子はかつて大学教員の洋平(永瀬)と恋に落ち、幼い泉を置いて家を出たことがあった。過去と現在を行き来しながら、母子の愛情と葛藤を描き出す。
花火の裏で怒号飛び交い
好きな場面を聞かれた菅田は、新しい生活を営み始めた百合子と洋平が手を触れ合うシーンを挙げた。「息子の泉目線では見たくないけど、きれいでなまめかしくて」。原田は「映画に入り込みすぎて、10年ぐらいたたないと振り返れない」というほど没頭。それでも母子と泉の妻香織(長澤)が訪れた、打ち上げ花火が「すごい体験でした」。
「お芝居も濃かったし、花火を目の前で見るインパクトもすごかった。芝居に合わせて花火が上がるように、全員がワンカットに向けて働いた。みなさんの思いが映像になっていくんだなと思いました」
この場面は「予算の関係で(笑い)、花火は3回までしかなかった」と川村監督。火を付けてから30秒で点火、15秒で打ち上がるから、それに合わせてカメラを回しとセリフを言うという計算され尽くした段取り。「裏では怒号が飛び交ってました」。菅田も「よく成立しましたね。生の花火へのリアクションが予想できないので、段取りどころじゃなかったですよ」。
サンセバスチャン出品「国も文化も超えると思う」
長澤は「出産シーン。初めはイマイチつかめなかった」。撮影現場にいた助産師に段取りに参加してもらったという。「そしたら、ほんとに産めたんですよ(笑い)」。生後数日の赤ちゃんを抱いての撮影で、菅田と長澤は感激のあまり号泣したとか。「もうちょっと使ってほしかった」と言う菅田に、川村監督は「ラストシーンが勝負だったから、その前に泣きすぎて。泣く泣くカットしました」。
永瀬は、百合子が洋平の元を去って行く別れの場面という。「百合子さんが僕に向かって叫ぶんですけど、そこがすごいんですよ」。思わず振り向きそうになった魂の叫びだったと振り返った。
映画は16日に開幕するサンセバスチャン国際映画祭のコンペティション部門に出品されている。原田は増村保造の「大地の子守歌」、黒澤明監督の「乱」などに出演して、欧州でも知られている。川村監督は「ヨーロッパでこの映画がどう見られるか興味があるし、映画祭の審査員も、あの原田さんがどう現れるか楽しみにしていると思う」と期待する。原田も「すごく楽しみ。認知症は身近だし、親子の関係性も共通だから、国や文化を超えて分かってもらえると思う」と話した。
最後に菅田は「川村監督の、映画館で見せるためにこの作品を作ったという言葉で、頭の中がいっぱい。みなさんの記憶に残ってくれることを願います」と呼びかけた。