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2024.1.01
挑戦に年齢は関係ないことを伝えるアネット・ベニング、ジョディ・フォスター共演作「ナイアド~その決意は海を越える~」:オンラインの森
2024年1発目の「オンラインの森」は、1月23日にノミネートが発表される第96回アカデミー賞のノミネートに絡みそうな配信作品に注目してみたい。
フロリダ海峡を泳いで横断、に挑戦したダイアナ・ナイアドの姿を描く
アネット・ベニングの主演女優賞ノミネートが有力視されている「ナイアド〜その決意は海を越える〜」は、一部劇場にて公開後、Netflixにて11月3日より独占配信中の感動作だ。実在するマラソンスイマーのダイアナ・ナイアドが、フロリダ海峡(キューバのハバナ-フロリダのキーウエスト)の180キロを泳いで横断することに挑戦した4年間を、彼女の自伝「対岸へ。 オーシャンスイム史上最大の挑戦」を基に描く。
何が驚きかというと、彼女のこの挑戦が60歳の誕生日から始まったことである。ダイアナは28歳で同じルートに挑戦したが失敗し、スポーツジャーナリストに転身した。泳ぐことすらしていなかった彼女は30年後、かつて達成できなかった夢への再チャレンジを決意する。
サメ、毒クラゲ、メキシコ湾の激しい海流などが行く手を阻むこのルートの難しさは、エベレストにも例えられる。そのルートを、必須アイテムであるサメよけのケージを使わずに泳ぎ切った最初の人物になることを目標に、親友でコーチのボニーとともに挑むのだ。
オスカーに過去4回ノミネート(※1)されているアネット・ベニングの、外見を本人に寄せていくアプローチはもちろんのこと、長時間泳いで疲弊していく演技もすさまじくリアルである。海水に2日以上(53時間)つかり続けているということは、2日間塩漬けにされているということ。豚バラのブロック肉を塩漬けにすると豚肉の水分が抜けていく。ダイアナの肉体でも同じ現象が起きているとしたら……と想像するとゾッとする。
波酔いや低体温症に苦しみ、毒クラゲに刺されて死にそうになっても、ダイアナは挑戦し続ける。泳ぎながら自分に向き合っているときや瀕死(ひんし)状態でもうろうとしているときに、ダイアナの脳裏には少女期に男性コーチから受けた性的虐待や(告発済み)、暴力的だった父親の記憶がよみがえる。
彼女にとってギブアップすることは、過去の加害者たちに屈したことに重なるのだろう。ベニングは、過去のトラウマをエネルギーに変えるダイアナの強さだけでなく、夢に取りつかれてまい進する人特有の、純粋さが時折狂気性を帯びるゆらぎも繊細に表現する。
アネット・ベニング、ジョディ・フォスターのオスカーノミネートにも期待
コーチのボニーを演じるオスカー女優(※2)のジョディ・フォスターも、助演女優賞のノミネートが有力視されている。ちなみに、1月7日に発表される第81回ゴールデングローブ賞では、アネット・ベニングが主演女優賞(ドラマ部門)に、ジョディ・フォスターが助演女優賞にそろってノミネートされている。ダイアナとボニーはふたりとも同性愛者で、過去に一度だけデートしたことがあるが恋人ではない。ボニーはダイアナにとって親友であり、最大の理解者だ。
傲慢で、時にエキセントリックで人当たりがよいとは言えないダイアナをさりげなくフォローして、チーム・ダイアナを作り上げた名参謀である。ここ数年はやりかつ賛否両論ある「本人映像」がエンディングで流れると、そのそっくり加減に驚愕(きょうがく)させられた。ダイアナ以上に鍛え上げた二の腕が気になっていたが、それも本人の完全コピーだった。
海洋を泳いでいるダイアナの精神が極限状態に追い込まれていく様子や、猛毒のハコクラゲに刺されて焼けるような体の痛みに苦悶(くもん)するシーン、嵐に見舞われるシーン、サメが突進してくるシーンなどは、パニックスリラーやホラー映画に匹敵するほど恐ろしい。撮影監督は「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」(12年)でも海の恐ろしさをスクリーンに映し出した、「トップガン マーヴェリック」(22年)のクラウディオ・ミランダだ。
監督はドキュメンタリー映画「フリーソロ」(18年)でオスカーを手にした、「THE RESCUE 奇跡を起こした者たち」(21年)のエリザベス・チャイ・バサルヘリィとジミー・チン。
彼らにとって初めての劇映画となる本作は、先に述べたスリリングな映像に加えて、トライアンドエラーの積み重ねの中で失敗要因を分析して改善していく面白さや、ダイアナとボニーの挑戦に航海士(リス・エバンス)やクラゲの研究家といった仲間たちが増えていく冒険ドラマ、そして挑戦に年齢は関係ないといったメッセージ性も兼ね備えている。新年の幕開けにぴったりの、やる気がみなぎること間違いなしの一本だ。
「ナイアド~その決意は海を越える~」はNetflixで配信中。
※1 ベニングの主演女優賞ノミネート作は「アメリカン・ビューティー」(1999年)、「華麗なる恋の舞台で」(04年)、「キッズ・オールライト」(10年)。助演女優賞ノミネート作は「グリフターズ/詐欺師たち」(90年)。
※2 フォスターは「告発の行方」(88年)と「羊たちの沈黙」(91年)で2度の主演女優賞を獲得している。