毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.8.19
みんなのヴァカンス
セーヌ川のほとりでアルマ(アスマ・メサウデンヌ)という若い女性とロマンチックな一夜を過ごした青年フェリックス(エリック・ナンチュアン)。恋の病にかかった彼は、親友のシェリフ、相乗りのアプリで知り合ったエドゥアールとともに、アルマが家族と休暇を過ごしている田舎町へと向かう。
エリック・ロメールの後継者とも呼ばれる「女っ気なし」のギョーム・ブラック監督が演劇学校の学生を起用して撮ったラブコメディー。夏の陽光がきらめく南仏の風景をバックに、キャンプ場での寝泊まり、サイクリング、川遊びに興じる若者たちの姿を活写。偶然の出会いをきっかけに枝分かれする物語は、不器用な登場人物たちがままならない現実と格闘しながら、恋や友情を育む群像劇へとふくらんでいく。フランスらしいバカンス映画の愉悦に満ちあふれた映像世界は、いとおしさとほろ苦さの混じり合い加減が絶妙。実にみずみずしい好編である。1時間40分。東京・ユーロスペースで20日から、大阪・シネマート心斎橋で9月16日から。(諭)
ここに注目
この時期もってこいの逸品。会話も自然で、景色も爽快だ。無駄な描写がなく簡潔。時間の流れ、物語の進み具合もほどよく、一緒に避暑に行った気にもなれる。何より登場人物の距離感の濃淡、心の揺れがユーモアを交えて心地よい。緩さの背景にある社会性の描き方にも納得。(鈴)