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2024.5.06
BTSのJ-HOPEがダンスを通じて人生を振り返るドキュメンタリードラマ「Hope On The Street」:オンラインの森
BTSのJ-HOPEことチョン・ホソクのドキュメンタリーシリーズ「Hope On The Street」が3月からAmazon Prime Videoで配信されている。世界に名をはせるスターが大舞台を降り、文字通り、路上(ストリート)で一人のダンサーに戻る。その姿を追った作品だ。
BTSの原点と言えば、ステージでの圧倒的なパフォーマンスだろう。「カル群舞」という、刃物(韓国語で「カル」)のようにキレ味が鋭く、ダンサーたちの動きが指先までそろったシンクロダンスの名手と称される。そのBTSの「ダンス隊長」と呼ばれているのが、J-HOPEなのだ。
BTSは今年デビュー12年目を迎え、現在はメンバー全員が兵役中。7人での活動は休止しており、各人がソロ活動を行っている。J-HOPEは、本作と同名のアルバム「HOPE ON THE STREET VOL.1」を世に送り出した。
師匠のBoogaloo Kinと世界をまわり、ダンスと向き合う
本作でJ-HOPEは、自身の半生をたどり、現在地を確認するかのようにダンスと向き合う。恩師であり、韓国のストリートダンスをけん引するダンサーのBoogaloo Kinと大阪、ソウル、パリ、ニューヨーク、故郷の光州をまわり、現地のダンサーたちと共演する。ジャンルはポップ、ロッキング、ハウス、ヒップホップ。BTSのダンス隊長という肩書をいったん手放し、各地でダンスシーンを彩ってきたレジェンドや、仲間たちと交流する。
あまりにも有名人なので経歴は省略する。グループの中ではムードメーカー的な存在で、ARMY(BTSファンの呼称)から「ホビ」の愛称で親しまれている。余裕のある立ち振る舞いでメンバーたちを支え、「陰のリーダー」とのあだ名も。プロ意識の高さはメンバー随一。殊にダンスに関しては厳しくなるとメンバーたちにからかわれている。
そんなJ-HOPEが世界中のストリートへ修行に出た。大阪の路地でのポップダンスに始まり、パリでハウスに挑戦する。ニューヨークでは憧れの伝説的なストリートダンサーから、得意分野と自負するヒップホップの手ほどきを受ける。
ストリートのレジェンドを前に、J-HOPEは「着いて10分で心が折れたよ」と言って目を丸くする。その謙虚さと、圧倒されながらも楽しそうに踊る姿からは、ダンスへの底なしの愛が伝わってくる。スーパースターになってもなお、情熱を燃やし続ける姿が眩(まぶ)しい。
BTSファンでなくても楽しめる
BTSがこれほどまでに大衆の心をつかんだ理由の一つに、彼らがマッチョさだけでなく、人間臭さ、弱さも見せてきたことがあるだろう。栄えある授賞式のステージで「解散することも考えていた」と涙ながらに明かしたり、コンサートで感極まって泣いたり、ファンに向けたV-logでメンバーたちは悩みや心の内を明かしたりしてきた。強さや男らしさが求められる韓国社会では希有(けう)な存在だった。
その点、J-HOPEは他のメンバーほど感情をあらわにすることはなかったように思う。いつも心が安定していて、若手メンバーであるジミンの「オンマ(お母さん)」と呼ばれるほど面倒見がいい。(ニックネームが多い!)他のメンバーを引き立てることを優先してきたようにも感じる。
だが、本作では成功と裏腹に心が追いつかないことがあることや、「これまでダンスに対して傲慢だったのかも」と振り返るなど、本音を吐露する場面が何度かみられた。彼のそうした一面を引き出したのは、修行をサポートしたBoogaloo Kin。ストイックにダンスを追求する2人のケミストリーも見どころの一つだ。ARMYでなくても、ダンスと音楽ファンも楽しめる作品だろう。
Amazon Original「Hope On The Street」はPrime Videoで独占配信中