毎日新聞のベテラン映画記者が、映画にまつわるあれこれを考えます。
2022.11.10
一枚岩への布石になるか 東京国際映画祭で映画団体一堂に
「持続可能な若手映画人の参入へ向けての提言」なるシンポジウムが、10月30日に開かれた。先ごろ閉幕した東京国際映画祭の関連企画だ。実際には「提言」には至らず、問題の「棚卸し」にとどまったとはいえ、とかくバラバラな映画界の大小各種団体が壇上に並び、同じフレームに納まっただけでも歴史的快挙ではないか。
シンポジウムで業界の課題総ざらえ
参加したのは、日本映画監督協会の本木克英理事長と松島哲也▽日本版CNC設立を求める会の諏訪敦彦・共同代表と内山拓也▽日本映画撮影監督協会理事長で近く発足する日本映画制作適正化機構理事長の浜田毅▽映画業界で働く女性を守る会代表のSAORI▽ブランドプロミス合同会社代表取締役の林三千代▽東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三。途中で韓国映画振興委員会委員長のパク・キヨンも加わった。
働き方改革やセクハラ・パワハラ撲滅機運は映画界にも及び、コロナ禍で業界の構造的問題が顕在化して改革を求める声は大きくなっている。参加者から現状への不満と疑問があふれ出た。
「企画開発にお金が出ない」「公的支援が少ない、分かりにくい」「やりがい搾取」「互いを支え合うシステムがない」「子どもができて人生が変わるのは女性だ」「低予算の撮影現場にまで〝適正化〟を当てはめたら日本映画の多様性が危うくなる」「製作本数が多すぎて、現場が貧しくなり疲弊している」「日本市場を食い合うのではなく世界を目指すべきだ」――。
映連の不在、気になったものの
いずれも散々言われてきた項目ではあるが、立ち位置の違いで見え方も微妙に異なる。例えば、日本コンテンツの海外発信を手がける林は「必要なのは日本の資産価値を高めること。世界を〝狩り場〟にするためには、米国標準の契約、著作権、SNSの使い方などを学生に教えるべきだ」とドライに指摘。パクの「韓国も5年ほど前までは日本と同じ。キム・ギドク監督らの性的暴力が暴露されて改革が進んだ。声を上げ続けた結果だ」という報告も示唆に富む。
積年の課題が2時間半で解決できるはずもなく、言いっ放しに終わった感もある。それでも問題意識を共有していることは確認できたし、SAORIの「監督が言葉にしてくれるだけでスタッフは安心する。対話から始めたい」という呼びかけには会場から拍手が起きた。諏訪が言った通り、今が「変われるか変われないかの瀬戸際」だ。ここを起点とすればいい。
ただ気になったのは、日本映画製作者連盟の姿がなかったことだ。邦画大手4社で作り、業界の動向を左右する。よもや批判の矢面に立つと尻込みした? 業界が一枚岩となるには欠かせない。出番が待たれる。