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2025.2.11
近年韓国時代劇で群を抜いた完成度! イム・ジヨン主演ラブロマンス「オク氏夫人伝 -偽りの身分 真実の人生-」
韓国の時代劇「オク氏夫人伝 -偽りの身分 真実の人生-」(全16話、U-NEXTで配信中)は、ここ最近の韓国時代劇のなかでも群を抜いた完成度だった(以下、本編の内容に触れています)。
ある事件をきっかけに運命が大きく変わっていくヒロイン
主人公は、身分の低い奴婢(ぬひ)として生まれたクドク(イム・ジヨン)。ある出来事をきっかけに身分の高い両班(ヤンバン)の娘オク・テヨンとして生きることになる物語で、彼女の波瀾(はらん)万丈な人生が力強く描かれていく。聡明(そうめい)なクドクは、やがて外知部(朝鮮時代の弁護士)となり立場の弱い人々を救っていく。しかし、快く思わない者や、過去を知る者の影が執拗(しつよう)につきまとう。
クドクの運命を大きく変えていく存在となるのは、クドクを苦しめ続ける身分の高い両班の娘ソヘ(ハ・ユルリ)、クドクに思いを寄せる両班の長男ソン・ソイン(チュ・ヨンウ)、ソインと瓜(うり)二つでテヨンに結婚を申し込むソン・ユンギョム(チュ・ヨンウ)、クドクと出会い友情を築く本物のオク・テヨン(ソン・ナウン)。彼らの人生が複雑に絡み合う。
奴婢として生まれたことで理不尽なことばかりだったクドクが、法の知識と正義で苦境の人々を救うストーリーは胸熱なのはもちろん、クドクを思い続けるソインのいちずな愛も本作の見どころ。両班の家を出て、芸人スンフィと名乗り全国を巡るソインは、普段はユーモアにあふれた自由な性格。しかし、クドクのためなら自らの一生をささげることを躊躇(ちゅうちょ)せず、深い愛で支え続ける。偽りの身だからこそ、2人のロマンスはとにかく切ない。
巧みな脚本と役者たちの演技で人気が右肩上がりに
物語をけん引したクドクを演じたのは、「ザ・グローリー~輝かしき復讐~」の悪役で一躍有名になったイム・ジヨン。強烈なインパクトを残した「ザ・グローリー」は、今後の俳優人生にかなり影響を与えそうな役だったが、「オク氏夫人伝」を新たな代表作にしてみせた。どんなことがあっても決して屈しない高潔なクドクの立ち居振る舞い全てが、イム・ジヨンの俳優としての底力を感じさせられた演技だった。
また、ソイン/スンフィ、ユンギョムと一人二役を担ったチュ・ヨンウは本作で本格的にブレーク。現在25歳のチュ・ヨンウは、2021年に俳優デビューし、わずか4年でドラマのメインキャストを張るまでになり、今作では一人二役も見事に演じ分けた。1月に配信されたばかりのNetflixシリーズ「トラウマコード」では、主人公に振り回される医師ヤン・ジェウォンを好演。同時期に別ジャンルの作品に出演し、どちらもヒットするということはなかなかないことで、一気に注目を浴びてスター街道を着実に歩み始めた彼の今後が楽しみだ。
本作は、奴婢だから、女性だからと不当な扱いを受ける痛みを知るクドクが、人に寄り添って不正を正す姿が胸を打つ。たとえ自分が憎い相手でも、時には感情を優先させず弁護することも。そんなクドクの半生を見てもなお、クドクのような生き方ができるのだろうか、苦しんでいる人々に手を差し伸べる勇気があるのか、社会的な立場や性別で人を判断してしまっていないだろうか、と胸に手を当てて考えてしまう。クドクのように正しさを貫いて生きることが、現代でも容易ではないと感じるからこそ彼女の生き様が深く響くのかもしれない。
邦題の通り〝偽りの身分〟だが〝真実の人生〟を歩むクドクの物語が、初回から怒濤(どとう)の展開を見せ、巧みな脚本と俳優たちの演技は視聴者の心をわしづかみに。韓国では視聴率が右肩上がりの人気ぶりで、ケーブル局のドラマでヒットの目安とされる10%を超え、最終回は13.6%を記録するほど多くの人を夢中にさせた。
「オク氏夫人伝」はU-NEXTで独占配信中。