「TOKYO VICE」に出演した渡辺謙

「TOKYO VICE」に出演した渡辺謙

2022.4.19

インタビュー:渡辺謙 「軸足は今の作品」日本と米国の製作現場から見えてきたこと

勝田友巳

勝田友巳

ハリウッドスタイルで日本ロケした「TOKYO VICE」


作品の現場があるところが本拠地とばかり、国境を越えて活躍する渡辺謙。2003年の「ラスト・サムライ」(エドワード・ズウィック監督)でアカデミー賞助演男優賞候補となって以来、ほぼ20年、新作ドラマ「TOKYO VICE」は、日米共同製作だ。日米両方の映画界を見てきた国際俳優の目に、日本の映画界はどう映るのか。
 

「今やってる作品が、軸足みたいなものかな」。2月にもタイで、ハリウッド作品を40日ほど撮影したばかり。「ぼくがこっち、なんて言っても、仕事をもらえなかったら何の意味もないんで」
 

時流を捉えた「ドライブ・マイ・カー」アカデミー賞

白人中心と批判されたハリウッドは、急ピッチで多様化に取り組んでいる。渡辺の活躍を追うように、「ドライブ・マイ・カー」がアカデミー賞で作品賞の候補になり、国際長編映画賞を受賞。ハリウッドの目は日本に向いているのだろうか。
 
「日本に関心を持つ人は多いと思う。ちょっと不思議で伝統もあるし、明らかにカルチャーが違う。そういう興味は、すごくあるでしょう」。ただ「ハリウッドとして関心を持っているというほどではないのでは」と続ける。「ドライブ・マイ・カー」の受賞も、時代に後押しされていると推測した。
 
「アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーの組織も、アワードの方向性も、ムーブメントがある。この数年は#MeToo運動から始まって、人種やジェンダーを均衡化する傾向が顕著にあると思う。特に今年は、コロナ禍がありロシアインパクトがあって、人の心の中をのぞくような作品に向く傾向だったんじゃないかな」
 
この20年で自身のフィールドは広がったが、日本人俳優全体の需要が増えたとはいえないようだ。「この役は白人、ここは黒人といったキャスティングの枠みたいなものは、グレーになってきている。ただアジア人枠はそんなに広がってるとは思えない。あっても、かなり中国や韓国のマーケットに取られてる」。ハリウッドのシビアなビジネス感覚が垣間見える。「それはまあ、しょうがない。中国のマーケットに売りやすくなる懐事情もあるからね」
 

「TOKYO VICE」 ©️HBO Max _ James Lisle

問われるのは俳優としての資質

しかし娯楽大作ばかりがハリウッドではない。「マーケティングだけでない作品なら、日本人にも食い込む余地はある。大きなバジェットの娯楽作でドンチャンガチャガチャやって終わりじゃ、後世に残らない。ちゃんと作品に向き合って、深く心に刻まれるようなテーマを求めていかないとだめ。結局、俳優としての資質を問われるっていうこと。呼ばれた時に、相手が思ってる以上のクオリティーをフィルムに残す。できるだけ劣化しないで、フレッシュな素材として参加していくことですよね」。俳優としての心構えは、日本でもハリウッドでも同じなのだ。
 
「TOKYO VICE」は、スタッフ編成はハリウッド中心、撮影地は日本。監督はじめ撮影監督らスタッフが米国から乗り込み、東宝撮影所と東京都内各地で撮影した。第1話を見る限り、映像の重厚さはまさにハリウッド映画。
 
「ライティングやカットの切り取り方は、日本と全くスタイルが違う。編集もうまい。日米の違いは端的に、システマティックなものだと思う。それが浸透しているから、現場がパッパッパッと成立する。撮影は、日本のように短いカットをつなぐよりは、シーンを通して芝居して、編集で切り取っていく。俳優としてはやりやすいと、僕は思います」
 
映像の差は、製作環境の大きな格差も反映している。「TOKYO VICE」は全8話の製作費が88億円という。足りない分は熱意と根性で、という精神主義の日本でも、ようやく見直しの動きが出てきた。そのことは歓迎しながらも、見方は慎重だ。「『働き方改革』って言うとさ、上から押しつけられる感じじゃない?」
 
ハリウッドは俳優やスタッフが職能ごとに組合(ユニオン)を作り、粘り強く製作側と交渉し、権利を認めさせて現在がある。「ユニオンは、現場から意見を上げていくもの。撮影現場でクリエーティブでいるため、人間的に仕事をするために時間をかけてルールを築き上げた」
 

日本映画界も下からの改革が必要では

「けど、『働き方改革』は、上からのかけ声。それに変革は、バジェットに著しく反映する。バックグラウンドを作った上でやらないと、どっかでコストを抑えたり、撮影日数を制限したりで、結局誰かが寝ずに仕事とか、10日も休んでないとかいう話になりかねない。上からではなくて現場から意見をあげて、守るべきものを守るためのルールを作る。方向を逆にしないといけないんじゃないかな」。理念は正しくても、形骸化しては意味がないと心配するのだ。
 
ロケ撮影の環境も、日本の課題だ。近年はフィルムコミッションが増えて改善されつつあるとはいえ、東京はいまだに「世界一撮影の難しい都市」だ。規制が多く社会の理解も進まない。
 
「そこはまだまだだね。三歩進んで二歩下がる、みたいな状態は続いてると思う。2年ぐらいすると役所の担当者が代わるわけよ。前の人は許してくれたけど、新しくなると、どういうことですかっていうとこから始まる。うまく引き継いでくれるといいんだけど」
 
その中で、「TOKYO VICE」はほとんどを日本で撮影した。東京でも、歌舞伎町などでロケを敢行。マイケル・マン監督はじめ、日米の関係者の熱意の結果。「情熱だと思うよ」。そして工夫も必要だ。
 
「米国なら、撮影許可が出れば何やっても許されるみたいなとこがあるけど、東京ではなかなか。道路を2ブロック通行止めにして、爆破も撃ち合いもするなんて撮影の許可はとれない。そこはうまく考えて、時には割り切って、撮影場所も含めてベストな方法を見つけるために、どれだけ情熱を持って交渉できるか。『TOKYO VICE』みたいな作品を足がかりに、少しずつでも間口を広げていければいい。この作品見て、撮らせてもいいかなと思ってほしいよね」

 
「TOKYO VICE」

ユニバーサルな企画で世界進出を

世界の映画界は多様化、グローバル化が顕著だが、日本映画の海外進出はなかなか進まない。「ドライブ・マイ・カー」のように国際的に評価される作品は、呼び水になるだろうか。「評価されたのはすばらしいけど、どれぐらいのオーディエンスが支持してくれたか、米国でどれぐらい興収があったかっていうのはまた別の話」。ビジネスとしての映画を見る目は冷静だ。それでも、可能性は感じている。
 
「世界に発信できる作品作りをしていけば、出資も得やすくなる。今は配信で、日本で作った作品が、いきなり字幕つきで全世界に出ていく。ユニバーサルな企画があれば、それなりのバジェットで余裕を持って製作できる現場を作れる可能性はあるよね。昔は狭い映画業界の中で『いやいや、それはムリ』みたいなことで終わっちゃってたけど」
 
「必要なのは、普遍的テーマっていうかな。『TOKYO VICE』で言うと、ヤクザ社会って今は否定的に見られるけど、そこには本能に近い生き方をする人たちの、原始的な人間性があるのかもしれない。彼らの、もちろんぼくら摘発する側も含めて、悩みとか苦しみ、憤りをこの作品はうまく描いてる。そういうものがあれば、世界に投げかける要因になるって気がする」
 

「TOKYO VICE」はWOWOWオンデマンドで日米同時配信中。4月24日からWOWOWで独占放送スタート。
 

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

内藤絵美

ないとう・えみ 毎日新聞写真部カメラマン

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