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2022.3.24

変わりゆく社会のなかで 映画公開70周年「雨に唄えば」

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

小湊 一凜

小湊 一凜

映画公開70年で再注目

 本作は今年で映画公開70周年を迎える。
ジーン・ケリーが土砂降りの雨のなか、タップダンスを踊る場面は世界の映画史に残る有名なワンシーンであり、劇中歌``Singin' in the Rain``は今もなお愛される名曲となった。そして今年に入ってから、ミュージカルやシネマオーケストラコンサートの公演、6月には4K版の発売も予定されており、70周年を迎えて本作への注目はますます大きくなっている。

そして、私も本作に魅了された一人だ。
 
物語の舞台は、トーキー映画(発声映画)の出現により、大騒動のハリウッド。それまでサイレント映画(無声映画)のスターだった女優のリナは、その悪声から将来が危ぶまれ、別の女優による吹き替えを行うことになる。パートナーのドンは、リナの吹き替えに採用された駆け出しの舞台女優キャシーに目をつけ、親友のコズモと一緒に彼女を次代のスターに担ぎ出そうと奮闘する舞台裏を描いたロマンスコメディーである。
 
私が本作を初めて見たのは12歳くらいの頃。人間離れしたダンスやスタント、豊かすぎる表情、カラフルな世界観に「なんだこの映画は」という興奮と、爽快感、前向きな気持ちに包まれたのを強く覚えている。ストーリーはなんだか理解できなかったけれど、それでも面白かったし、とにかくワクワクした。後に私がエンターテイメントに興味を持つことになったのも本作との出会いがたしかに影響していると思う。
 

 ステイホームで改めて見てみた

それから10年がたち、私たちの生きる現在は未知のウイルスに見舞われ、社会も日常も変化せざるを得なくなった。誰にも会えない学生生活、シフトに入れないアルバイト、帰省もできず、先も終わりも見えない就活……    詰んだ。何もかも想定とは違う現実に私も同世代の友人たちも少し疲れが出ていた。
 
それからステイホームが日常になじんできた頃、私の元にもれなくやってきたのが映画ざんまいチャンス! 私は空白の時間を埋めたい焦りと、前向きな気持ちにさせてくれる何かと出逢(あ)いたい一心で無我夢中で映画を見た。名作や傑作といわれるものからサブスクに上がってくる人気作や話題作など、とにかく見た。
 
そのなかでふと、ひとつの作品が目に留まった。
元気が欲しいときに見たくなるのはやっぱり「雨に唄えば」だった。
 
初めて本作を見た12歳の頃より、パフォーマンスだけでなく、ストーリーの気づきも増えていて、友情や三角関係、変化していく社会で奮闘する彼らの姿に、気づけば笑顔と元気、勇気をもらっていた。
見れば見るほど彼らにとっての一大事に共感して、ますます面白いし、画面から飛び出してくるようなエネルギーやウイットに富んだ面白さはなんだか病みつきになる。
 
 また改めて、ジーン・ケリーをはじめとする俳優のダンスや表現力には感銘を受けた。``Singin' in the Rain``はもちろん、``Make 'em Laugh``におけるコズモを演じるドナルド・オコナーのダンスやアクロバットには目を奪われた。圧巻だった。
 
 

 映画はリスク!

ある友人が、いつかの会話で「映画を見るのはリスクだ」と言っていたことを思い出した。1作品見るのに2時間はかかるから集中力が持たないし、自分が期待していたものと違ったら時間も無駄だったと思ってしまうと。つまり「映画を見るのはハイリスク」というわけだ。
 
それからダメ元でその友人に「雨に唄えば」を見てほしいと強く推してみたところ、意外な反応が返ってきた。展開が予想外で面白かったこと、パフォーマンスに魅了されたこと、``Singin' in the Rain``が本作の劇中歌と初めて知ったことなどを笑って教えてくれたのだ。まず見てくれたことに私は驚いたし、さらには歌がストーリーになじんでいて違和感なく見ることができ、ミュージカルや映画に対するイメージも少し変わったそうだから、なんだかとてもうれしかった。
 
そう、ミュージカル映画とかサイレントやトーキーだとか、なんでこんなに有名なのか?とか、いろんな難しいことは置いておいて、まずは手に取ってみてほしい。
 

前向きに生き抜けるヒントが

「雨に唄えば」は、仕事映画の一面もあって、見ているとなんだかモチベが上がる。
そして見終わったあとには、温かくてポジティブなエネルギーに包まれる。なんだろう、気分が高まった時に、つい鼻歌を歌いたくなっちゃう、そんな感じ。
 
もしかしたら、あの頃の私や友人は、変わりゆく映画界で奮闘する彼らの姿と、未曽有の事態に変化せざるを得ない現代社会を生きる自分たちを重ねて見ていたのかもしれない。困難に直面しても、決して諦めず挑戦し続け、互いに励まし合って前向きに奮闘する彼らの姿は頼もしくカッコよく見えた。
 
もし自分がリナの立場だったら、明日仕事がなくなるかもしれない不安のなかで、自分自身を諦めない覚悟と謙虚さを持てるだろうか?
 
キャシーのように、たとえ望まない姿であっても、信念を貫きチャンスをつかみにいく勇気があるだろうか?
 
自分も大変なとき、コズモのように脇目もふらず、大切な人を励ますことができるだろうか?
 
自分のために、そして大切な人のために、未来のために選択を重ねた先で、私もドンのように雨に唄える自分でありたい。
 
仕事に振られて、恋に振られて、雨にも降られて…。
「雨に唄えば」はまるでいつかの私たちの物語のようだ。
 
映画公開70周年の時を経ても世界中でなお愛され続ける秘密は、軽やかなタッチで描かれるもそこには俳優のたしかな技術があり、どんなときも前向きに生き抜けるヒントがこの物語に隠されているからなのかもしれない。


「雨に唄えば」6/3発売
【初回限定生産】日本語音声追加収録版 <4K ULTRA HD & ブルーレイセット>(2枚組)6,980円(税込)
 発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
 販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
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雨に唄えば

物語の舞台は、トーキー映画(発声映画)の出現により、大騒動のハリウッド。それまでサイレント映画(無声映画)のスターだった女優のリナは、その悪声から将来が危ぶまれ、別の女優による吹き替えを行うことになる。パートナーのドン(ジーン・ケリー)は、リナの吹き替えに採用された駆け出しの舞台女優キャシー(デビー・レイノルズ)に目をつけ、親友のコズモ(ドナルド・オコーナー)と一緒に彼女を次代のスターに担ぎ出そうと奮闘する舞台裏を描いたロマンスコメディー。
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ライター
小湊 一凜

小湊 一凜

こみなと・ いちか 1998年6月25日群馬県生まれ。慶応義塾大文学部4年在学中。幼少期にピアノやクラシックバレエなどの経験を通して、表現の奥深さや面白さ、芸術や創作の魅力を知る。大学進学を機に上京し、映画の自主制作や音楽活動に取り組むなかで、自主制作映画の受賞をキッカケに俳優の道を志す。これまでに、テレビ朝日『そんなコト考えた事なかったクイズ! トリニクって何の肉!?』や、銀座博品館劇場ブロードウェイミュージカル「big the Musical」をはじめとし映画や舞台、広告に出演。現在は、主に雑誌「non-no」のカワイイ選抜やガールズユニット「Merci Merci」のサブリーダーとして活動中。好きな映画は「フォレスト・ガンプ/一期一会」、「ウエスト・サイド物語」(1961年)、「母なる証明」、「誰も知らない」、「スワロウテイル」、「彼女がその名を知らない鳥たち」など。趣味はギターとピアノ、弾き語り、スポーツ観戦、ラジオ、料理。