私の息子が異世界転生したっぽい(MFC)コミック/KADOKAWA

私の息子が異世界転生したっぽい(MFC)コミック/KADOKAWA

2022.10.18

コミック「私の息子が異世界転生したっぽい」に思う、家族の「死」と残された家族の「生」

出版社が映画化したい!と妄想している原作本を担当者が紹介。近い将来、この作品が映画化されるかも。
皆様ぜひとも映画好きの先買い読書をお楽しみください。

ひとしねま

入倉あゆみ

コミック市場ではいまや一大流行ジャンルとなった「異世界転生もの」ですが、現実とは違うファンタジー世界に転生した主人公たちの、残された家族や周りの人の様子を描く作品はあまり多くありません。
交通事故や病死など、さまざまな理由で死を経て異世界へと行き、新たな人生を謳歌(おうか)する主人公たちを、失ってしまったと悲しむ家族がいるかもしれない。そんな思いで、ひとりの親として作者のかねもとさんが描かれたのが本作です。
 

息子は「異世界で生き続けている」という心のよりどころ

高校生の息子を事故で亡くした母親・美央は、あまりの悲しみに事実を受けとめられず「息子は異世界へ転生したに違いない」と、異世界転生モノに詳しい同級生・堂原に会いにいくところから話は始まります。
 
息子を失った美央が、異世界転生小説に救いと逃げ場を求めて、異世界に行った息子と再び会える日が訪れるという希望を心の支えにしている危うい様子は、私自身も子供を持つ親として胸をえぐられる思いで読みました。
大好きなパートナー、子供、ペット、親兄弟、友人……。みんな大切な誰かがいて、みんな誰かの大切な人。なんでもないと思って息子を送り出した朝の光景を、美央は永遠に忘れられないでしょう。
 

深い悲しみや絶望から一歩踏み出すヒントをくれる

美央の悲しみと絶望にとことんまで付き合った、元同級生の堂原。彼もまた何者にもなれなかった自分と現実を忘れさせてくれる「異世界転生ファンタジー」が大好きなひとりのオタクです。彼女のまるでふざけているような話を真剣に聞いてくれたのは、堂原だけでした。
高校時代にはたいした接点も持てなかったふたりが、迷い、傷つき、明日を生きるためにどうやって前を向くのか。その鍵を握るのは、堂原なのです。
 
コミックスとしては全1巻と長いストーリーではありませんが、読みながら自分の大切な人の顔が思い浮かんでくるようなキャラクターの感情表現や、テーマの重さを軽やかなリズムで中和してくれる作者のかねもとさんのラフな作風、ラストシーンのあとの読後感など、長編映画を観た後のような感動と充足感を得られることを保証します。
 
大切な人を失ったとき、あなたならどうしますか? 誰かが死んだとき、残された人々はどうやって前を向き、立ち上がるのか。「私の息子が異世界転生したっぽい」はそんなテーマを、ときに笑いを交えながらもまっすぐ描いた作品です。
※KADOKAWAにて発売中

ライター
ひとしねま

入倉あゆみ

いりくらあゆみ コミックフラッパー編集部副編集長。
担当作に「盾の勇者の成り上がり」「無職転生~異世界行ったら本気だす~」「専念狐~干宝「捜神記」より~」など。
本作の作者かねもとさんの商業デビュー作「伝説のお母さん」も担当し、NHKでテレビドラマ化。
双子姉妹の母。