「#マンホール」©2023 Gaga Corporation/J Storm Inc.

「#マンホール」©2023 Gaga Corporation/J Storm Inc.

2023.2.14

インタビュー:中島裕翔・前編 泥まみれ泡まみれ、半狂乱「自分の殻を破る経験だった」 「#マンホール」

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勝田友巳

勝田友巳

Hey!Say!JUMPの中島裕翔が、「#マンホール」で6年ぶりに映画出演。単独主演というよりも、ほどんどの場面で出演者が彼1人。泥だらけで取り乱し、パニックになって半狂乱。シュッとした二枚目のイメージを覆す汚れっぷり。「今までとまったく違う経験」という「#マンホール」の撮影で、「知らなかった自分」と巡り合ったという。

 


 

脚本一読「すげえ!」 でも演じるのは自分「大丈夫かな……」

「『半沢直樹』(2013年)に出演して以来、スーツの好青年というイメージが定着して、それも好きなんですが、それとは打って変わって……」。「#マンホール」で演じた川村も、最初はスーツで決めたエリート会社員。しかし結婚式前夜のパーティーの帰り道、マンホールに転落、出られなくなってしまう。

 

「作品の雰囲気も暗いですし、2分に1回ピンチが訪れる。感情を爆発させるシーンもたくさんあって、今まで表現したことのない感情に出合ったり触れたりするっていう機会も多かった」。力を込めて「今までとは全く違う作品でした」。

 

脚本は「ライアーゲーム」「マスカレード」両シリーズなどの岡田道尚のオリジナル。舞台設定を限定した「シチュエーションスリラー」を日本でも、と始まった企画だ。川村は、携帯電話で元カノに助けを求める一方、SNSで「マンホールに落ちた女性」になりすまして世間の関心を集めようと試みる。ほぼ全編、川村はマンホールの中で一人きり。

 

脚本を一読して「すげえな」と感心。「オリジナルでこんな面白い脚本を書く人がいるんだ、『#マンホール』っていうタイトルからして斬新だなって。純粋にお客さんとして読んでたんです」。我に返って思い当たった。「あ、これ俺がやるんだと。どう映像化するか、1人でどうやって持たせたらいいだろうと、不安になりました」

 

熊切和嘉監督は、川村の履歴書めいた背景を数ページにわたって用意してきた。「びっしり書かれてて、川村の人となりを膨らますのにすごく役に立った。とても助かりました」

 

多彩な表情のマンホール 唯一の共演者

撮影はほとんどが、借り上げた倉庫に作ったマンホールのセットの中。上部と下部に分けられ二つ作られていた。「そのセットが不気味で汚くて、めちゃくちゃリアルなんです。質感とか経年劣化の具合とか、サビとかコケとか。セットにすごく助けられた。マンホール自体がいろんな表情を持ってると思いました」。美術は安宅紀史。マンホールが共演者というわけだ。

 

マンホールの底は泥、ハシゴが壊れて落ち、ケガをして血を流し、雨に打たれ、あふれてくる泡に埋もれそうになる。警察にも相手にされず、やがて自分が誰かに陥れられたと思い込み、疑心暗鬼になってゆく。撮影は脚本に沿った順撮り。日を追うごとに状況が悪化する。セットがリアルな分だけ、メンタルに来た。

 

「周りにはスタッフさんがいたから本当に孤独ではないんですけど、狭い空間に一人きりっていうのが、精神的にも肉体的にも来ちゃって。最初のうちはつらかった。『もう、やだ』と思いながら、マンホールの中から上を見上げて、おれは絶対ここから出るんだって、自分に言い聞かせたぐらい。自分をドライブさせるのが大変でした」


 

「ここにいるんだと信じ抜く」

狭い空間で、演技も制限付き。「電話で話してるか独り言をつぶやいてるか、SNS打ってるか。相手がいないので、もらえる要素が少ない。1人だけど、ひとり芝居でもいけないし」。ただ、画(え)を持たせるための細工は考えなかったという。「そういうプロセスで芝居を考えたくなかったので、この状況を自分のこととして信じ抜くこと、本当にマンホールの中にいようと心がけました」

 

一方で、撮影現場は並々ならぬ熱気に包まれていたとか。「関わった皆さんがいい意味でクレージー。熱があって、クリエーティブで」。熊切監督が先頭を切って、喜々として狂ったそうだ。

 

「朝の段取りで、監督もカッパ着てマンホールに入ってくる。泥だらけになって『こんなのどう』と、実演しながら演技指導するんです。ニコニコしながら怖いことを提案してくる。こちらも負けじと『じゃあ、こうなってた方が面白い』とアイデアを膨らませて。僕が提案したことに、監督が引く瞬間もありました。『えぐいこと考えるね』って(笑い)。楽しい仲間と一緒にあれこれ言い合いながら作っていく、現場の楽しさはすごくあった」


マンホールに落ちた川村が助けを求めるのは元カノの舞(奈緒)。スマホの写真で登場


「オレ、こんな顔してたんだ」

限られた場所でいかに画を作るか、スタッフも熱が入った。「いい大人が泥だらけでマンホールの中ではいつくばってるし、カメラや照明も凝りまくって。倉庫の中央にあるマンホールに、そこにいる全員が集中している。はたから見ると滑稽(こっけい)なんだけど、とてもいい雰囲気でした」

 

完成した作品を見て、驚いた。「自分が出てる作品を初見で見る時は、面白いかどうか判断できないんですよ。自分の芝居が気になって。だけど今回は初めて、最初から客観的に見られて、面白いと思った」

 

スクリーンに見知らぬ自分を発見したという。「見たことのない表情があって、オレこんな顔してたんだと。撮影の時にモニターで見てチェックしたはずなのに。引き出してくれたこの作品に感謝だし、喜びです」

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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