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2023.1.08
あまりにも有名な「ピノキオ」を大胆にアレンジしたアニメ「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」:オンラインの森
ディズニーアニメの名作としてあまりにも有名な「ピノキオ」は、19世紀のイタリア人作家カルロ・コッローディの児童文学が原作。児童文学、とはいっても、コッローディは社会批判や皮肉をふんだんに盛り込んでいて、これまでにいろんなバージョンの映像化作品が生まれている。
最近では、ディズニーアニメのバージョンをロバート・ゼメキスが監督した実写版があり(ディズニープラスで配信中)、ゼペットじいさんをトム・ハンクスが演じた。2019年にはイタリアの監督マッテオ・ガローネが原作の世界観により近い「ほんとうのピノッキオ」を発表しており、これも昨年11月に日本で劇場公開されている。
さらにいえば「ライフ・イズ・ビューティフル」で知られるロベルト・ベニーニが監督主演を務めた2002年版「ピノッキオ」は、本国イタリアでの公開当時49歳だったベニーニがピノッキオをハチャメチャに演じた異色作で、見た目はおじさんのピノッキオに賛否両論が渦巻いたものの、ラストシーンのほろ苦さもあって個人的には大好きなバージョンだ。
ギレルモ・デル・トロが原作や過去作をリスペクトしつつ、オリジナリティー高いストーリーを構築
そんなピノッキオかいわいに新たに現れたのが、Netflixで12月9日に世界同時配信された「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」。「シェイプ・オブ・ウォーター」でアカデミー賞監督賞に輝いたギレルモ・デル・トロが、長年にわたり苦労を重ねて実現させたストップモーションアニメーションである。
デル・トロは「ピノッキオ」に自身の作家性を反映させたほんのりダークなビジュアルと世界観を持ち込み、原作やディズニー版のエッセンスを取り入れながらオリジナリティーの高いストーリーを展開している。最も大胆な改変は、19世紀の物語を、ムソリーニが権勢を振るったファシズム時代のイタリアを舞台にしたことだろう。
いたずらっ子で無知だが純真なピノッキオは、いろんな人にだまされながら流転の運命をたどるわけだが、デル・トロはその背景に全体主義の脅威や戦争の悲惨さを取り込んだ。特に原作にある、子どもを集めてロバに変えて売ってしまう国が少年兵のための訓練キャンプになるなど、スペイン内戦とダークファンタジーを融合させた「パンズ・ラビリンス」の監督ならではのアプローチ。コッローディの社会風刺に現代性を取り込んだアレンジと言える。
監督の元に集結したユアン・マクレガーら豪華な俳優たち
そしてテーマ的にも大きく変わった点が、原作や過去の映像化をリスペクトしながらも、「ピノッキオがいい子になって人形から人間になる」という物語の根幹に手を加えたことだろう。
デル・トロといえば「子供の頃からモンスター映画を見てはモンスター側に感情移入していた」と公言しており、これまでの作品でも人ならぬ者への愛着とシンパシーを貫いてきた。本作でも「ピノッキオは聞き分けのいい良い子になって人間になるのが幸せなのか?」と疑問を投げかけてくるのである。
またデル・トロと一緒に仕事をしたいと思う名優は多く、ピノッキオの良心を象徴するコオロギ役にユアン・マクレガーを筆頭に、ティルダ・スウィントンやクリストフ・バルツといったアカデミー賞に輝くそうそうたる面々が声優として参加。
一番驚くのはデル・トロとは近作「ナイトメア・アリー」でコラボしたケイト・ブランシェットで、スパッツァトゥーラという猿の役。人語を話すシーンは一切なく、猿のうなり声や叫び声を担当しているのだ。
なんでもブランシェットはどんな役でもいいからとデル・トロに直談判して、唯一残っていた猿の役を手に入れたのだとか。希代の名優が出演を切望した、奔放だが美しい工芸品のように精緻なストップモーションアニメを、子どもも大人もぜひご覧いただきたい。