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2023.3.27
火山に魅せられたクラフト夫妻の物語「ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦」:オンラインの森
今年のアカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートされていた「ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦」は、およそ常人には理解も共感もしがたい夫婦の物語だ。
カティア・クラフトとモーリス・クラフト夫妻は、そろって高名な火山学者であり、120を超える活火山の間近まで赴いて貴重な写真や映像を撮影してまわった。大規模な噴火が起きると必ず駆けつけることから、火山学者たちの間では「火山の悪魔」というニックネームが付いていたという。
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大学で出会い意気投合、生涯を火山の研究に捧げたクラフト夫妻
2人はフランスのスイス国境にほど近い、20kmほどしか離れていない町で生まれ育った。ストラスブール大学の学生として知り合い、どちらも火山に魅せられていたことから意気投合。生涯を火山の研究に捧(ささ)げた。夫妻が身の危険をものともせずに撮影した映像や写真は、大自然の力強さと恐ろしさ、そして圧倒的な美しさに満ちた驚異的なもので、2人は常々から「火山のためなら死んでもかまわない」と公言していた。
噴火した火口や、燃えたぎる溶岩の中に分け入って喜々としている2人は、いわば究極の似た者同士。ドキュメンタリーは夫妻が残した膨大な映像アーカイブと実際に発した発言をもとに構成されており、いかにお互いを必要とし、尊敬し、一緒に人生を歩んだのかが伝わってくる。
活火山の幻想的な風景も手伝ってえもいわれぬロマンチシズムを感じなくもないが、ちょっと冷静になれば自殺行為を重ねているようにしか見えない面もある。それが学術的な研究や、噴火の恐ろしさを啓蒙(けいもう)するのが目的だったとしても、だ。
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ミランダ・ジュライの繊細なナレーションがピタリとハマる
監督のセーラ・ドーサは、できるかぎり第三者の評価を排除して、この2人にしかわかりあえない宇宙が存在することを描こうとしている。唯一、他者の視点を感じさせるナレーションにも、どこか詩を詠むような浮世離れした感覚がある。ナレーターを務めたのはミランダ・ジュライ。作家であり、前衛パフォーマーであり、映画監督として「君とボクの虹色の世界」「さよなら、私のロンリー」などで奇妙で優しい独自の感性を発揮してきた天才だ。
ミランダ・ジュライの繊細な声の響きが、このドキュメンタリーにはピッタリと合っている。肯定でも否定でもなく、ただ包み込むような作品になっているのは、監督の人選の妙にもあるのだろう。いつしか荒涼とした火山の奇観に安らぎを覚えたとしたら、あなたはクラフト夫妻の心に少しだけ足を踏み入れたのかもしれない。
ちなみにクラフト夫妻は1991年に雲仙・普賢岳の火砕流で亡くなったので、ニュースになったことを覚えているひともいるだろう。
夫妻の最期は、NHKとフランスが共同制作したドキュメンタリードラマ「1991 雲仙・普賢岳 〜避難勧告を継続せよ〜」(もしくは夫妻を中心にした別バージョン「カティアとモーリス 〜雲仙・普賢岳に挑んだ夫婦~」)で詳しく描かれた。本作とはまったく違うアプローチの優れたドキュメンタリーなので、もしどこかで見る機会があれば、そちらも併せてオススメしたい。
「ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦」はディズニープラスで独占配信中