ひとしねま

2022.3.17

チャートの裏側:苛烈な現実 二重写しに

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

初登場の「ウェディング・ハイ」は、実に楽しい作品だ。タイトルにある「ハイ」=高揚感の作用が、映画を見た観客に強烈に及ぼしてくる感がある。気分が良くなるのだ。映画が、それを狙っていたら、たいしたものである。ただ、興行が苦戦している。残念極まりない。

結婚式に至るまでの人間模様、式の混乱が面白おかしく描かれる。式に臨む当事者や招待者たちのありそうな気持ちをベースにしている。共感の根が、そこにある。巧みなセリフの数々を、よどみなく練りあげていく演出手腕が見事だ。本作を埋もれさせてはもったいない。

「THEBATMAN」は、「ハイ」とは逆の作用を観客に与える。復讐(ふくしゅう)を基本線にした話が、見る者の神経をとげとげしく強打してくる。気分が盛り下がるのだ。少なくとも、私はそうだった。バットマン映画はダークな面が全開となることも多い。なのに、今回は印象が少し違う。

今のウクライナ情勢が影響している気がした。中身というより、見る側の姿勢の変化だ。復讐の連鎖、権力の腐敗、悪辣(あくらつ)な犯罪組織、大都市混乱といった苛烈な描写が続く。これらがリアルな現実と間接的にだが、二重写しになって迫ってくる。最終興行収入では10億円台半ばが狙えるが、今後の関心の度合い、見た人の反応はどうだろうか。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)