DAU.退行 (c) PHENOMEN FILMS

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2021.8.26

特選掘り出し!:「DAU. 退行」 怪しい実験、研究所の崩壊

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

ソ連の全体主義社会を今に再現するという狙いのもと、莫大(ばくだい)な製作費と物量を投じた「DAU」プロジェクト。ウクライナのハリコフに秘密研究所の巨大セットを建造し、大勢の俳優が実際にそこで暮らして撮影したという。今年春に日本公開された「DAU・ナターシャ」は、研究所のカフェで働く中年女性の受難を描き、ミニシアターでヒットを記録。続編「退行」の公開が実現した。

今回の時代背景は1960年代後半。酒とセックス、西洋文化にむしばまれた研究所の風紀をただすため、元KGBのアジッポが新所長に就く。所内で超人養成計画などの怪しい実験が行われ、被験者であるエリートの若者たちはナチス的な優生思想を信奉する。

登場人物の内面は描かれず、ドラマ性は極端に乏しい。あらゆる事象を傍観的に捉えるカメラは、崇高な理想を掲げた研究所が内側から腐敗し、無残な崩壊に至るまでを映す。歴史の教訓や風刺を見いだすこともできようが、6時間9分の過剰な長さも含め、啞然呆然(あぜんぼうぜん)の映画体験そのものが異形の怪作である。イリヤ・フルジャノフスキー、イリヤ・ペルミャコフ監督。東京・シアター・イメージフォーラム(28日から)、京都シネマ(9月24日から)ほか。(諭)

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