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2025.2.04
新人&ベテランの正義感がぶつかり、共鳴、成長する刑事バディードラマ「オンコール」
「FBI」「ロー&オーダー」「シカゴ・ファイア」など、人気シリーズを多く手がけてきたディック・ウルフが製作総指揮を務めた最新サスペンスドラマ「オンコール」がAmazon プライムビデオで配信中だ。
新人と指導教官が捜査の中で関係性を築いていく
本作の中心となるのは、新人巡査アレックス・ディアス(ブランドン・ララクエンテ)と、彼の指導教官トレイシー・ハーモン(トローヤン・ベリサリオ)という二人の警察官だ。日々のパトロールや捜査の中で、彼らは単なるパートナー以上の絆を育んでいくのだが、もちろんそれも一筋縄ではいかない。本作は二人の価値観や正義感が時に共鳴し合い、時に衝突するなかで、互いが少しずつ影響し合い、変化していく様子を丹念に描いた人間ドラマとなっている。
ベテラン教官のハーモンは、深い傷と怒りを抱えている。かつての教え子が犯罪者に射殺されたこともあり、彼女は時として私情を捜査に持ち込んでしまう。担当外の事件の捜査中にさえ、教え子の事件との関連を探ろうとする姿勢は、警察官としては危うさをはらむかもしれないが、ハーモンを動かすのは単なる復讐(ふくしゅう)心ではない。捜査スタイルは型破りでも、彼女が一本芯のとおった正義・善の心を持った人物であることは常に描かれ続ける。警察としてなすべきことと、新たな教え子を失いたくないという切実な思いが交錯するパラドックスこそが、ハーモンという人物の魅力を形成しているのだ。
一方で、新人のディアスも独自の正義感を持ち合わせている。家族との複雑な関係を抱えているからこそ、彼は犯罪者をただの〝悪〟として切り捨てることをよしとしない。一人一人の人生に真摯(しんし)に向き合い、時には柔軟な解決策を模索する姿勢は、典型的な警察官像からは一線を画すといえる。ただし、その理想主義と新人ゆえの無謀な姿勢は時として危うさも伴う。そんな彼の未熟さや揺れる心を、ハーモンは時に厳しく、時に優しく受け止めていく。
物語は第1話から、この二人の興味深い関係性を鮮やかに描き出す。規則に縛られず時にグレーな手段も辞さないハーモンに、新人ディアスは不安を感じながらも深い尊敬の念を抱く。一方のハーモンは、単純に犯罪者を裁くのではなく、相手の人生に真摯に向き合おうとするディアスの姿勢に、驚きと共感を覚えていく。そしてシリーズの幕開けを飾るこの第1話は、ラストに添えられたシーズン全体の予告編で更なる期待をあおってくれる。そこに映し出される緊迫のシーンの数々は、これから展開される物語の強い吸引力を予感させ、一気に視聴せずにはいられない衝動に駆られるほどだ。
法と人情の間で揺れ動く
「オンコール」の最大の魅力は、その人間味あふれる警察官たちの姿だろう。主人公の二人は、それぞれの家族との複雑な関係を背負いながら、安易な〝犯罪者〟というレッテル貼りを避け、法を犯した人間にも一個人として真摯に向き合おうとする。これは決して犯罪を軽視するわけではない。むしろ、時として厳しい判断も辞さない彼らだからこそ、相手の人生に向き合うという選択に重みがある。この姿勢は、時として警察上層部が抱える理想像からは外れるかもしれないが、規則と人情の間で揺れ動きながらも、常に相手の更生や地域社会全体のことを考えて行動する二人の姿には、強い説得力と共感を覚えずにはいられない。
そして本作は、刑事ドラマでありながら、優れたバディー作品としての側面も持ち合わせている。互いの資質を認め合う二人は、時に信念の違いや感情の揺らぎから衝突し、信頼関係が揺らぐ場面もある。しかし、そうした危機を乗り越えるたびに絆を深めていく様子は、本作をより重層的な人間ドラマへと昇華させている。教官と新人という師弟関係でありながら、互いに影響を与え合い、高め合っていく二人の関係性は、見る者の心を強く打つ。
今作の物語構造は、巧みな2層構造で織り上げられている。一方では、家庭内暴力や免許証の期限切れ、ドラッグや売春絡みのトラブルなど、警察官が日常的に向き合う出来事と地域住民との触れ合いを丁寧に描く。そしてもう一方では、主人公二人それぞれの過去や家族の問題、そして時に私情が入り交じる捜査と規則との葛藤といった、より大きなドラマが数話にわたって展開される。
この二層構造の妙は、ただ並行して描かれるだけではない。一見独立しているように見える個々の事件や出来事が、やがて互いに絡み合い、より深いストーリーを紡ぎ出していく。時には何気なく交わされた会話が、後の展開で重要な意味を持つことさえある。各話30分という手ごろな尺の中で、こうしたミクロとマクロの視点を巧みに行き来する語りは、1話完結で楽しむことも、一気に視聴することも可能な柔軟さを生み出しているのだ。
本作の映像表現もまた、作品の臨場感を高める重要な要素だ。警察官たちが装着するボディーカメラ、意図的な揺れを取り入れた手持ちカメラ、時に街角の監視カメラなどの映像までもが、巧みに織り交ぜられていく。これらの多層的な映像アプローチは、単なる演出以上の効果を生み出した。緊迫したサスペンス展開において、まるで現場に立ち会っているかのような生々しい臨場感を醸成し、時には泥臭く人間味のある瞬間をも見事に切り取っている。
法と人情のはざまで揺れ動く警察官たちの姿を繊細に描き出す「オンコール」は、ベテラン教官と新人警官という普遍的な関係性に、新しい息吹を吹き込んだ意欲作として、強く心に残る作品だ。
「オンコール」はAmazonプライムビデオで独占配信中。