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2022.7.14
マイナー映画に可能性 市を挙げて支援 ジャンル映画の祭典「プチョン国際ファンタスティック映画祭」
プチョン国際ファンタスティック映画祭は、ホラーやスリラー、SFなどに特化した映画祭。万人受けというよりマニアが熱愛するジャンル映画を、市を挙げて支援する。アジア最大の、ファンタ映画祭として世界中に知られている。今年で26回目、曲折を経ながら続く映画祭の裏側を、シン・チョル執行委員長とキム・ヨンドク・チーフプログラマーに聞いた。
ニッチ狙い ソウルへの対抗意識も
――第26回の今年は、英語訳で「STAY STRANGE」というスローガンを掲げています。日本語にすれば「ヘンでも大丈夫」というところでしょうか。プチョンはどんな映画祭ですか。
キム 韓国では、プサン国際映画祭に次いで古い映画祭です。元々工業地帯だったプチョンの振興策を考える中で、前年に始まったプサンも刺激となり、ファンタスティック映画祭というアイデアが浮かびました。映画はリュミエールが発明し、その後すぐに、魔術師とも呼ばれたメリエスが、映像の加工や編集で物語を語り始め、映画の基礎を作りました。映画の起源として、プサンがリュミエールとするなら、プチョンはメリエスを目指していると言えるでしょう。ジャンル映画は固定的ではなく、常に変化していて、想像力の可能性を感じさせると思います。
シン プチョンがジャンル映画に注目したのは、ソウルへの対抗意識もあったと思います。大都市ではあるがソウルにはかなわないという位置づけが、マイナーながら根強い人気のジャンル映画と重なったのではないでしょうか。ジャンル映画は、芸術性と大衆性の間のグレーゾーンにあると思っています。だからこそ、いろいろなことが生まれるし、見えてくる。他との差異化も図れるのです。「ヘンでも大丈夫」というスローガンは、そうした思いが込められています。
シン・チョル映画祭執行委員長=映画祭提供
――映画祭の予算規模はどのくらいですか。
シン 予算は約55億ウォン(1ウォン=0.1円)で、市から45%、国から15%の補助を受け、スポンサー収入も含め助成が4分の3を占めていますが、チケット販売も貢献しています。試算では、経済効果は7倍、広報効果は20倍、25年間で300億ウォンを投じ、2000億ウォンほどの効果があると考えています。
先鋭すぎて分裂開催も
――ホラーやスリラーは、時に暴力的だったり過激な表現があったりと、万人が受け入れるわけではありません。市民や議会から、反発の声はないのでしょうか。
シン 行政側と多少の摩擦はあり、緊張関係を維持しながら協力しています。金大中大統領時代からの「金が出すが、口は出さない」というモットーは生きていると思います。とはいえ、中には上映作品の選考に口を出そうとする役人もいて、そういう干渉をさせないのがわたしの役目だと考えています。
キム これまでに大きなトラブルがありました。2000年代前半、上映する作品の先鋭的な雰囲気に上の世代の映画人が反発して、映画祭が分裂したのです。私たちは映画祭を離れ、05年にはソウルで「リアルファンタスティック映画祭」を開催しました。多くの映画人がプチョンをボイコットする騒ぎになり、16年、第20回を機に「映画人が集まる映画祭に」と和解したのです。
キム・ヨンドク チーフプログラミングディレクター=映画祭提供
ここから映画を再定義する イカゲームに授賞
――上映作品は、どのような基準で選んでいますか。今年はBL(ボーイズラブ)特集もありましたし、「イカゲーム」にシリーズ映画賞を贈りました。
キム 毎年いくつか特集を組みますが、映画ファンの動向を反映したいと考えています。これまで香港任侠映画やボリウッドなどに焦点を当てました。BL映画は韓国の映画雑誌「シネ21」の特集が大評判となるなど、多くのファンがいると分かりました。チケットはあっという間に売れましたよ。02年には、サイレント映画時代のポルノ映画を集めた「ブルームービー」を特集しました。上映だけでなくシンポジウムも開催し、興味本位ではないことを示しました。観客の固定観念を刺激して、表現の自由について考えてもらおうと思ったのです。
シン 今回からシリーズものの部門を設け、「イカゲーム」は最初の受賞作です。「スターウォーズ」シリーズが映画と呼ばれるのに、「イカゲーム」は映画ではないのでしょうか。区別することに無理があるし、矛盾が大きくなっています。配信か映画かはもはや呼び方の問題です。これまで2時間の映像を映画としてきたけれど、今やさまざまな形があり、それらを包摂することが必要です。新しい時代に合わせて、ふさわしい定義をし直さないといけない。プチョンはその先駆けとなって、提案したいと考えています。
アジアのアイデンティティーを保ちたい
――人材育成にも取り組んでいます。
キム 韓国映画振興委員会(KOFIC)のインディペンデントへの支援はアート映画が中心で、低予算のホラーなどは見過ごされがちです。商業映画なのに支援する必要があるのかとの批判もありますが、プチョンはニッチな分野の作家を選び、育成しています。プチョンの支援制度は、アジアなど海外では知られるようになり、プチョンを目指して映画を撮る作り手たちも現れるようになりました。
――映画祭の目指す方向は。
シン アジアのファンタスティック映画祭としてのアイデンティティーを保ちたいですね。ヨーロッパのマネをしても意味がありません。アジアの人に楽しんでもらいたい。今後はどの方向に向かって拡大していくか、市と検討しています。プチョンには観光資源がなく、今年から始めた市庁前広場でのイベント「7月のハロウィーン」はパレードにして展開しようかと考えています。
プチョン国際ファンタスティック映画祭
1997年に第1回が開かれ、毎年7月、10日ほどの期間に約300本の映画を上映している。市役所内の二つの上映ホールと市内のシネコンなどが会場。長編、短編の国際コンペティション「プチョン・チョイス」、韓国映画のコンペ「コリアン・ファンタスティック」、著名監督の作品を集めた「マッド・マックス」、ホラーの新作「アドレナリン・ライド」、SFやスリラーを集めた「メタル・ノワール」などの部門や特集部門がある。企画マーケット「B.I.G」では、若手のジャンル映画の製作支援や人材育成に取り組んでいる。