「ティン&ティナ」Netflixで独占配信中

「ティン&ティナ」Netflixで独占配信中

2023.6.20

無垢か邪悪か 不気味で愛くるしい異形の7歳児 「ティン&ティナ -双子の祈り-」:謎とスリルのアンソロジー

ハラハラドキドキ、謎とスリルで魅惑するミステリー&サスペンス映画の世界。古今東西の名作の収集家、映画ライターの高橋諭治がキーワードから探ります。

高橋諭治

高橋諭治

映画史上には〝恐ろしい子供〟を描いたホラー&スリラーの系譜がある。「悪い種子」(1956年)、「未知空間の恐怖/光る眼」(60年)、「回転」(61年)、「悪を呼ぶ少年」(72年)といった古典がその代表格で、6月6日午前6時に生まれた悪魔の子が災いをもたらす「オーメン」(76年)はあまりにも有名だ。終盤に明かされる少女殺人鬼のまさかの〝正体〟に、世界中の観客が絶句したであろう「エスター」(2009年)のインパクトも強烈だった。


 

キーワード「恐ろしい子供たち」

とりわけ筆者にとって忘れられない衝撃作が、ナルシソ・イバニエス・セラドール監督作品「ザ・チャイルド」(76年)だ。スペインの小さな島の住民である子供たちが、ある日突然、これといった理由もなく大人を皆殺しにしていくという不条理さ。しかも襲われる側の大人たちは、相手が子供だけに反撃さえできず、ひとりまたひとりと命を奪われていった。これぞ〝恐ろしい子供〟ホラーの最高峰だろう。
 
今回紹介するNetflixオリジナル映画「ティン&ティナ -双子の祈り-」は、「ザ・チャイルド」と同じスペイン映画(アメリカ、ルーマニアとの合作)だが、そこまで圧倒的に怖い作品ではない。しかし歴代の〝恐ろしい子供〟映画とは違うユニークな着想に満ちあふれ、不思議と目が離せない一作に仕上がっている。


失意の夫婦が引き取ったきょうだい

映画は教会での厳かな結婚式のシーンから始まる。ところが妊娠中の若い新婦ロラは、その幸せの絶頂のさなかに合併症を発症して流産し、二度と子供を産めないだろうと病院で宣告されてしまう。退院後、悲しみに暮れるロラは、夫アドルフォの提案で修道院を訪れ、そこでめぐり合ったティン&ティナという7歳の双子のきょうだいを養子として引き取るのだが……。
 
かくして広大な農園の屋敷を舞台に、親子4人の新たな生活がスタートするのだが、ロラはすぐさまティン&ティナの挙動に違和感を覚えるはめになる。修道院で神の教えに従って育てられた2人は、祈りをささげてからでないと食事に手をつけようとしないし、持参した十字架を家のあちこちに取りつける。あらゆる話題を神様に結びつけ、雷という自然現象は神の怒りなのだと本気で信じているようだ。


窒息ゲーム、魂の浄化

さらに〝神様に会うためのゲーム〟と称して、ティナがティンにビニール袋をかぶせて窒息させかけたり、ロラにかみ付いたある動物の魂を浄化するために切り刻んだりと、双子の予想もつかない行動はエスカレート。パイロットのアドルフォは不在がちで、孤立したロラは何を考えているのかわからない子供たちに恐れおののいていく。
 
こうした筋立ては〝恐ろしい子供〟ホラーの典型的なパターンだが、本作には他の作品とは明らかに異なる点がある。ティン&ティナは大人をゾッとさせる常軌を逸した行動を連発するが、それは〝邪悪ゆえに残酷〟なのか、〝無垢(むく)ゆえに残酷〟なのかが判別できない。2人が聖書に書かれた一言一句を絶対視するのは、純真さゆえの盲信であり、ひょっとすると狂信的な修道院長に洗脳されたのかもしれない。いや、この双子はすべて計算ずくでロラの歓心を買い、無垢な子供に成りすました小さな怪物なのではないか?
 

見る者混乱させる仕掛け

これが長編デビュー作のルービン・スタイン監督は、ティン&ティナを「オーメン」の悪魔の子ダミアンのような邪悪な存在と決めつけて描かない。無邪気さと残酷さが同居した双子の本質をあえてベールで覆い隠し、主人公のロラを、そして私たち見る者を混乱に陥れていく。そんな作り手の狙いを完璧に体現した子役たち(アナスタシア・ルッソ、カルロス・G・モロヨン)の演技もすごい。白髪に近いブロンドの髪と、青白い肌を持つアルビノのような外見もさることながら、過剰なまでに天真爛漫(らんまん)に笑ってはしゃぎ、歌と踊りも披露する2人の怪演が不気味にして愛くるしい。
 
そして信仰というテーマは、母親のロラにも向けられている。幼い頃に事故で両親と死別し、片足が義足になったロラは、流産の悲劇を経験したことで神の存在を信じられなくなった。ティン&ティナは、そんな迷える子羊のロラを〝救済〟するために神がつかわした天使か、それとも……。ここでもスタイン監督は曖昧な余白を残し、最終的な解釈を観客に委ねている。
 
また、理由は定かでないが、本作の時代背景はスペインが民主化された直後の81年に設定されている。当時のテレビ番組のフッテージや流行歌の取り入れ方にもスタイン監督のこだわりが感じられ、宗教的要素の色濃い恐怖劇にブラックコメディーの興趣を吹き込んでいる。ストーリー展開はかなり緩やかで、派手な恐怖描写も乏しいため、ガチで怖いホラーを所望する向きにはお勧めしないが、ストレンジな変種の〝恐ろしい子供〟映画としてこの系譜のリストに加えたい1本である。
 
「ティン&ティナ -双子の祈り-」はNetflixで独占配信中。

ライター
高橋諭治

高橋諭治

たかはし・ゆじ 純真な少年時代に恐怖映画を見すぎて、人生を踏み外した映画ライター。毎日新聞「シネマの週末」、映画.com、劇場パンフレットなどに寄稿しながら、世界中の謎めいた映画、恐ろしい映画と日々格闘している。