毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.2.03
シネマの週末・チャートの裏側:方程式揺り動かす挑戦
テレビ局映画といっても、地上波局とBS局では、いささか製作の姿勢が違う。それを象徴したのが、BS局のWOWOWが、日活とともに製作の手綱をとった「前科者」だ。この局は、社会派の色を濃くする作品に挑む時、一段と精彩を放つ。本作は、その大きな成果になった。
仮釈放された人の保護観察を行う女性保護司が主人公だ。映画は、犯罪をめぐる加害者、被害者という二分法的な構図を揺り動かす。彼女が、その際の行動者だ。エンタメ色の彩りも、作品全体を淡く包み込む。観客は大きな問いをしょいこむ。この演出は並大抵の技ではない。
一方、地上波局の日本テレビが製作幹事となった「ノイズ」は、エンタメ色をより強烈にしたサスペンス劇だ。地域社会の闇が根底にある。現実にはありえないような設定、話の展開だが、虚構の想像力が、狭い共同体のグロテスクな様相を浮上させる。演出は切れ味がいい。
以上の2本は、テレビ局が得意とする人気ドラマの映画化作品ではない。人気ドラマのほうが、興行的な安定感は当然ある。ただ、ヒットの方程式を、まさに揺り動かしていかないとマンネリ化が進み、逆に観客は離れていく。企画には、いくつもの引き出し、選択肢が必要だ。今回、興行の視点は別の話になるが、果敢な挑戦に見えた。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)