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2023.9.11
組織の不条理を多角的に追及した社会派ドラマ「D.P. -脱走兵追跡官-」シーズン2:オンラインの森
組織の不条理を淡々と、それでいてしつこく追及したドラマだ。
軍隊から脱走した兵を追うD.P.(Deserter Pursuit)の視点で、軍隊の闇に焦点を絞った「D.P. -脱走兵追跡官-」シーズン2。見応えたっぷりだったシーズン1(2021年)の続編は、より一層多様なキャラクターを登場させ、さらに多角的に問題に切り込んだ印象だ。
(以下、本編の内容に一部触れています)
軍隊から脱走した兵を追う兵士の視点で軍隊の闇に迫った韓国ドラマの続編
主人公アン・ジュノ(チョン・へイン)は、入隊後に素質を見込まれてD.P.に配属された。元ボクサーで、寡黙な青年。陽気に振る舞う先輩ハン・ホヨル(ク・ギョファン)と、なかなか出世できないが、良心のかたまりのような上司パク・ボムグ(キム・ソンギュン)と共に、脱走兵を捕まえる。
隊内の苛烈な暴力といじめ、LGBTQ差別、残された年老いた祖母の介護……。ジュノたちは、脱走兵の足取りを追うなかで、それぞれの事情にぶちあたる。どれもつらく、悲しく、同情せずにはいられない。新たな事実を発見するたびに、動揺を隠さず、苦悩するジュノたちの人間らしさに共感する。
シーズン2で最も印象に残ったのが、「ニーナ」(ペ・ナラ)だ。本名ソンミン。ミュージカル専攻だった大学時代に、チェーホフの戯曲「かもめ」でニーナ役を演じ、本来の自分は女性であることを自覚した。いわゆるセクシュアルマイノリティーである。
「かもめ」のニーナと同じように、「女優」(「俳優」ではなく、ここではあえて女優という言葉を使いたい)を夢見るソンミンことニーナだが、そのたおやかなたたずまいが軍隊ではあだとなる。
入隊前からニーナの居場所は限られていたが、軍にはどこにもなかった。当然だろう。マッチョな男らしさが物を言う世界で、ニーナが生きていく余地などない。隊員に嘲笑され、いじめられる回想シーンでは、性暴力を匂わせる場面も出てくる。
ジュノたちは、ニーナが置かれていた残酷な環境をひもとき、衝撃を受けながらも、懸命にニーナを探す。ニーナは軍隊に戻されてしまうのだろうか。どうか見逃してあげてほしい――。視聴者の同情心が頂点に達する頃、物語は悲劇に終わる。ぼうぜんと立ちすくむジュノの表情、ニーナと因縁があるホヨルの涙が、余韻を残す。
実際に起こった事件を思わせるエピソードもあり軍の暴力問題に向き合う
韓国では、男性に18~21カ月の兵役の義務があり、暴力の問題が度々問題になってきた。ドラマの時代設定は14年。この年、部隊内で集団暴行死事件が発覚し、いじめを受けていた兵士が銃乱射事件を起こし、5人が命を落とした。東京新聞の記事によると、 国防省がシーズン1放送時にドラマについてコメントを出したり、大統領選(22年)に向けて軍の問題が論じられたりしたという。
ニーナについては、入隊後に性別適合手術を受け、除隊処分を受けた後、21年に自宅で遺体で見つかったトランスジェンダーの元兵士、ピョン・ヒスさんを想起させるとの指摘もある。韓国社会において、同作はあながちフィクショナルなドラマではない。
チョン・ヘインの代表作と言えば、「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」(18年)。ソン・イェジンの相手役としてスターの仲間入りをした。いちずで優しく、頼りになる年下彼氏役を好演しつつ、生々しい格差社会の中でもがく姿を見せた。
今回、主演を張った「D.P.」は、正面から社会問題にメスを入れた硬派な作品だ。22年の「百想芸術大賞」で、「イカゲーム」を抑えドラマ作品賞などを受賞した。世間が軍人に抱くイメージを覆すような物静かで繊細、弱さを抱えるジュノ役で、チョン・ヘインはキャリアを開花させた。
Netflixシリーズ「D.P. -脱走兵追跡官-」シーズン1~2独占配信中