「スイング・ステート」より © 2020 Focus Features. ALL RIGHTS RESERVED.

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2023.7.24

想定外で痛快な結末のキレッキレな社会派エンターテインメント作品「スイング・ステート」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

ひとしねま

須永貴子

2021年9月の劇場公開時、あまり話題にならなかったアメリカ映画「スイング・ステート」の配信が、7月2日よりU-NEXTで始まった。「大統領選挙のプロ集団が、田舎町で大波乱を巻き起こす!!」というキャッチコピーの通りのポリティカルコメディーでありつつ、都会人が田舎の流儀に悪戦苦闘するドタバタコメディーでもある。

そしてまさかのどんでん返しでアメリカの政治システムを痛烈に批判する。その一方で、観客の「メディアリテラシー(情報の受け取り方)」にも警鐘を鳴らす、キレッキレの社会派エンターテインメントに仕上がっている。

監督・脚本・製作のジョン・スチュワートは、パロディーニュース番組「ザ・デイリー・ショー」で1999年から2015年までキャスター兼、脚本・プロデュースを務め、この番組でエミー賞を2回受賞。スチュワートはアカデミー賞授賞式でも2度司会を担当し、長編映画の監督・脚本・製作は「Rosewater(原題)」(14年)に続く2作目となる。


民主党の選挙参謀が主人公。史実をベースにフィクションを構築

主人公は、民主党の選挙参謀を務めるゲイリー・ジマー(スティーブ・カレル)。16年のアメリカ大統領選挙で、民主党候補のヒラリー・クリントンが共和党候補のドナルド・トランプに〝勝てたはずなのに〟大敗し、ゲイリーは打ちひしがれている。ゲイリーは架空の人物だが、クリントンがトランプに負けたことは事実。つまり本作は、史実をベースにフィクションを構築しているのだ。

おそらく、アメリカの選挙が題材と知った時点で、「自分には関係ない」「難しそう」と、鑑賞の選択肢から外す映画ファンは少なくないだろう。それでもこの映画には見る価値がある。たとえ国や制度は違っても、登場人物が語る言葉には、国境を超える力があるからだ。

特に、名優クリス・クーパーが演じるジャック・ヘイスティングスから放たれる言葉は感動的だ。海兵隊の退役軍人の〝大佐〟ことジャックは、アメリカ中西部ウィスコンシン州の架空の町・ディアラケンの農夫。妻に先立たれ、28歳の娘ダイアナ(マッケンジー・デイビス)と2人で暮らしている。

ディアラケンは基地が閉鎖され、住民が一晩で1万5000人から5000人に激減し、財政が逼迫。町議会では、給付制度の不正受給者、つまり移民を排除する法案が議決されようとしていた。そこに乗り込んできたジャックは、「仲間割れしても解決にならない。〝鎖の強さは最も弱い輪で決まる〟。神父に〝兄弟を見守れ〟と教わった」と、弱者を切り捨てずに、助け合って生きていくことを説く。さらには「良い時代に強がるのは簡単。問題は悪いときだ。そこで主義を貫けないなら、それは主義ではなく趣味だ」と、政治の本質を語る。

その動画がYouTubeで「海兵隊の英雄、移民のために立ち上がる」とバズり、ゲイリーはジャックを「使える」と判断する。「顔は保守的、話は革新的。模範的なアメリカ人男性」であるジャックが、先の大統領選で勝てるはずだったのに負けてしまったウィスコンシン州を、民主党の地盤にするきっかけになると踏んだのだ。

そしてゲイリーは、ジャックをディアラケンの町長選に立候補させる。現職のブラウン町長は共和党支持者。それを聞きつけたゲイリーの宿敵で、大統領選でトランプの選挙参謀だったフェイス・ブルースター(ローズ・バーン)がディアラケンに乗り込み、ブラウン町長側に付く。人口5000人の田舎町の町長選が、ゲイリーとフェイス、さらには民主党と共和党の代理戦争の場となっていく。

ある対話のシーンが印象的。脚本の見事さにも注目

タイトルの「スイング・ステート」は、4年ごとに行われる大統領選挙において、共和党と民主党の勝利する政党が毎回変わる激戦州のこと。スイングは「揺れる」、ステートはもちろん「州」を意味する。ウィスコンシン州は1988年以来民主党が勝っていたのに、16年に28年ぶりに共和党のトランプが勝利した。ゲイリーがリベンジマッチを仕掛けるにはもってこいのスイング・ステートなのだ。
 
ゲイリーとフェイスの(ときにお下劣な)論戦や、選挙に勝つためのアナログ&ハイテクな戦略の数々、メディアを巻き込んだ狂騒の後に交わされる、選挙についての本質的な対話が強く印象に残る。それは、ある決定的な戦略ミスにより、ジャック陣営が窮地に追い込まれたときの対話だ。

ゲイリーから提案された現職の悪事を暴く戦術を、ジャックの娘ダイアナは「私たちは善人よ。敵が汚いなら、汚い手を使う必要はない。敵が汚い分だけこっちはキレイにやる。一緒に汚くなったら後悔する」と拒絶する。ゲイリーは「善人も大義のために手を汚す。これは政治じゃない、ただの数字だ。支持者を増やせないなら、敵の支持者を減らすだけ。それが選挙だ」と言い残して去っていく。

この会話は、日本の野党が選挙に弱い理由もズバリ突いている。とはいえ、一人の人間としてはダイアナの主張に100%賛成だし‥‥‥。なんてことを考えていたら、想定外の痛快な結末に着地した。保守だのリベラルだのはさておいて、映画ファンには、この見事な脚本をひとまず堪能してほしい。

「スイング・ステート」はU-NEXTで配信中

ライター
ひとしねま

須永貴子

すなが・たかこ ライター。映画やドラマ、TVバラエティーをメインの領域に、インタビューや作品レビューを執筆。仕事以外で好きなものは、食、酒、旅、犬。

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