Netflix シリーズ「サンクチュアリ -聖域-」世界独占配信

 Netflix シリーズ「サンクチュアリ -聖域-」世界独占配信

2023.5.21

理念を共創し続けるクリエーターが「サンクチュアリ -聖域- 」から学んだバカの魅力

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

加来幸樹

加来幸樹

Netflixのオリジナルドラマ「サンクチュアリ-聖域-」は、大相撲界に足を踏み入れたヤンキー力士・猿桜(えんおう)の姿を描いた作品。役者陣の驚異的な役作りにより忠実に再現された力士の厳しい稽古(けいこ)風景や、大相撲界の知られざる一面をリアルに描いた点、そして、猿桜の成長と周囲の人々との絆を描いたドラマ性などが大きな話題を呼んでいる。

胸が沸いて沸きまくった午前4時

軽い気持ちで第1話を見始めたのが、ゴールデンウイーク最終日の20時半。翌日早くから仕事を控えていたにもかかわらず、途中でやめることはできなかった。最終話が終わる頃には翌朝4時を過ぎていたが、後悔は一切なかった。理由はそう「胸が沸いた」からだ。

「胸が沸く」。これは作中においても主人公である猿桜の相撲に対してしばしば使用されるフレーズだが、猿桜の取組が作中の人物たちの胸を沸かせたように、この作品もこの時代を生きる多くの視聴者の胸を沸かせている。

しかし、胸を沸かせるとは一体どういうことなのか。職業が力士ではなかったとしても、自分の土俵で最高の仕事をして関わる人の胸を沸かせてみたい。その気持ちを抱くのは私だけではないはずだ。

ちなみに私は株式会社サインコサインの代表として、日々さまざまな企業やブランドの理念を言語化し、その実現も支援しているが、その根底にあるのは「自分の言葉で語るとき、人はいい声で話す」という信念。この「いい声で話す人」は間違いなく「胸を沸かせてくれる人」だという共感も手伝って、なおさら「胸が沸く」ことの正体が知りたくなり、何度も本編を見返した。

いい意味でバカだらけの作品

すると、多くの場面で「ある言葉」が使われていることに気がついた。

「ハハハ・・・・・・バカや!」「バカがバカって言う方が腹立つんだよ、バカ!」「いい面しとるやん・・・・・・などなど、挙げればキリがない(かつネタバレになるので詳細な場面解説は割愛する)のだが、注目したいのはそのいずれもが決してただの悪口として発せられているわけではないということだ。互いの個性の面白さを認め合ったとき、何度でも立ち上がる闘志をたしかめたとき、など。どこまで製作者の意図かはわからないが、いずれも前向きで肯定的な文脈で、あえて「バカ」という言葉を用いるようにしていると感じた。

ここであらためて「バカ」という言葉ってどういう意味なんだっけ? 実は前向きで肯定的な文脈が隠されていたりするのか? ということで、ここははやりに乗って話題のChatGPTで「バカ」について聞いてみたが、期待もむなしく「否定的で侮辱的な意味合いだから使うな」といった回答が即答された。そう、普通は使わない言葉なのだ、普通は。だからこそ、この(いい意味で)バカだらけの作品は胸を沸かせてくれるのではないだろうか。

さあ、ぶつかり合ってバカになれ

他人には理解しがたいほどに、自分の中に「好きなもの」や「果たしたいこと」があり、それにただひたすらまっすぐに突き進む登場人物(いい意味でのバカ)がこの作品には数多く登場する。上述の弊社の信念に重ねるならば「自分の言葉で語る人」とも言えるかもしれない。と同時に、自分ではなく他人を動機としてしか行動できず、結果として苦しみ続ける登場人物たちも数多く登場する。逆に彼らがバカと評される描写は一切なかったはずだ。

そして誤解を恐れずに言えば、この二つの側面はきっとあなたの中にも同時に存在しているはずだ。良くも悪くもそれが人間であり、その面白さでもあることもこの作品があらためて気づかせてくれた。

「稽古の中にしか自分の形は見いだせない。もしかしたら形など見つからないのかもしれない。それでも彼らは土俵という聖域の中で探し続ける」。これも作中に登場する、ある人物の言葉だ。私もあなたも、自分の心という稽古場の土俵の上で、自分から逃げたくなる自分と真正面からぶつかって、負けても何度でも立ち上がって、勝って、自分らしくバカになる必要があるのではないか。そのとき目の前にはきっとあなたの宿敵(とも)となるバカも待ち構えているはずだ。

さあ、バカとバカでぶつかり合おう。まったなし!

PS. なお本作の監督を務めている江口カン氏は、私と同じ大学(九州芸術工科大学/現在の九州大学芸術工学部)の出身。この事実も、ますます私の胸を沸かせてくれている。同じ学び舎やの出身として、同じ県の出身として、心から誇らしい気持ちと心から悔しい気持ちも、私の心の土俵の上ではぶつかり合っている。先輩、もっともっとバカになる勇気を本当にありがとうございます。

ライター
加来幸樹

加来幸樹

かく・こうき
1983年福岡県生まれ。九州大学芸術工学部卒。2006年セプテーニ新卒入社。広告クリエーティブ職などを経て、2018年に株式会社サインコサイン設立。「自分の言葉で語るとき、人はいい声で話す」という信念のもと、みんなちがってみんないい経済圏を目指して、企業や個人のアイデンティティーをあらわす理念やパーパスの共創ならびにその実現を支援している。このサイト「ひとシネマ」のネーミングも手がけた。福岡ソフトバンクホークス信者の新宿ゴールデン街ルーキー。