「愛国の告白―沈黙を破る・Part2」]©Doi Toshikuni

「愛国の告白―沈黙を破る・Part2」]©Doi Toshikuni

2022.11.29

力による排除、もしかして私も?「愛国の告白 沈黙を破る・Part2」:英月の極楽シネマ

「仏教の次に映画が大好き」という、京都・大行寺(だいぎょうじ)住職の英月(えいげつ)さんが、僧侶の視点から新作映画を紹介。悩みを抱えた人間たちへの、お釈迦(しゃか)様のメッセージを読み解きます。

英月

英月

元イスラエル軍兵士らによって〝占領軍〟の実情を告発するNGO「沈黙を破る」が創設されたのは2004年のこと。これは、翌年から3年にわたって彼らを取材したドキュメンタリー映画「沈黙を破る」(09年)の続編です。

かつて愛国心から、誇りを持って入隊した彼らは、個人のモラル(倫理)が簡単に崩壊させられることに衝撃を受けます。と同時に、無実の人の家を爆破し、深夜に民家に押し入るなど自分たちが行っている〝占領〟とそのための行為は、自国のモラルをも崩壊させているのではないかとの危機感から、告発という行動に出ますが、「裏切り者」「スパイ」と非難や攻撃を受けることに。それでも命をかけてまで信念を貫くのはなぜかとの問いを通して、真に国を愛する意味が問われていきます。

ある元将兵は、兵役で得たのは力の感覚だったと言いましたが、その言葉にぞっとさせられました。なぜなら、遠く日本で暮らす私たちにも起こり得ることだからです。もちろん、銃を構えて力を誇示するようなことはしません。けれども、立場や役職によって、あるいは多数の側に立つことで、ある種の力を持つことはあります。そしてその時私たちは、自分とは違うと判断した人たちを、簡単に排除してしまうことがあるのではないでしょうか。

映画で元将兵が発した「根っこには『人間は違う』という幻想がある」という言葉とも重なります。つまり、映し出される軍の恐ろしい行為は、形や規模は違えども、この私が起こすかもしれない、いえ、既に起こしているかもしれない行為なのです。なぜなら、宗教や思想、文化などが違っても、同じ人間だというシンプルな事実がなかなか受け入れられないのは、他でもない私自身だからです。

東京・新宿K'sCinema、大阪・第七芸術劇場ほかで公開中。

ライター
英月

英月

えいげつ 1971年、京都市下京区の真宗佛光寺派・大行寺に生まれる。29歳で単身渡米し、ラジオパーソナリティーなどとして活動する一方、僧侶として現地で「写経の会」を開く。寺を継ぐはずだった弟が家出をしたため2010年に帰国、15年に大行寺住職に就任。著書に「二河白道ものがたり いのちに目覚める」ほか。インスタグラムツイッターでも発信中。Radio極楽シネマも、好評配信中。

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