ひとしねま

2022.8.26

チャートの裏側:血湧き肉躍る醍醐味

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

これは、ミニ「トップガン マーヴェリック」状態ではないか。「ロッキーVSドラゴ:ROCKYⅣ」の興行である。大ヒットした「ロッキー4 炎の友情」(1986年)の再編集版だ。驚いた。東京のメイン館がほぼ満席だった。館数が少ないのでチャート外だが、観客の熱量が高い。

監督・主演は、言わずと知れたシルベスター・スタローンだ。公開時に未使用だった映像が、何と約40分も追加された。80年代の米映画の圧倒的な息吹が一段と洗練された。「マーヴェリック」とは、製作の形も興行の規模もまるで違うが、観客の熱い視線に共通点がある。

初公開時にはあざとさと紙一重だった映像と音楽のコラボレーションが、今回はなかなかいい案配で再構成された。ドラマ性も強くした。未使用映像があったから、できたことである。まさに映画館の大画面にふさわしい仕上がりだった。血湧き肉躍るとは、このことだろう。

80年代の米映画の特徴の一つに耳に心地よい、覚えやすい音楽の数々がある。今回の場合も、音楽が観客の気持ちを力強く引っ張っていく。郷愁もあるが、映画館の大音響のただ中からは、改めて映画の醍醐味(だいごみ)が感じとれる。映画から、何が失われようとしているのか。スタローンとトム・クルーズは、そのことにとても自覚的である。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)