ひとしねま

2022.9.02

チャートの裏側:新鮮な風 若い人にもっと

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

ちょっとした異変だろう。「アキラとあきら」だ。スタート3日間の興行収入が約1億9000万円。最終10億円あたりか。物足りない。池井戸潤原作の映画化である。彼の原作作品は、社会現象化したテレビドラマの「半沢直樹」をはじめ、映画での実績も高い。何があったのか。

映画では、これまで「七つの会議」(21億6000万円)と「空飛ぶタイヤ」(17億4000万円)がある。安定している。安定感の源は、観客たちに及ぼすカタルシスだろう。企業社会に楔(くさび)を打ち、主人公の思い、行動力の強さが最後には報われる。スリリングな展開の妙に魅力がある。

「アキラとあきら」は、2人の若き銀行マンが、いくつもの逆境を乗り越えていく。大団円の結末はわかっているが、やはり心地よい。ありきたりな、いわゆるベタな描写も多いが、悪い気はしない。作品に芯が通っているからだ。底流にある青臭い理想論が意外な力をもつ。

このように作品は見応えがある。ところが、興行面は別物だ。若手銀行マンが活躍する設定が、微妙な結果を生んだと推測する。これが、池井戸映画に多かった年配者の足を少し鈍らせたか。逆に若い人は、題材を堅苦しく感じたかもしれない。主演2人が、映画に新鮮な風を吹かせている。若い世代に、もっと届いてほしい作品である。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)