「画家と泥棒」の一場面 ©MADEGOOD FILMS

「画家と泥棒」の一場面 ©MADEGOOD FILMS

2022.12.25

ノルウェー産ドキュメンタリーから、サメが出ないサメ映画、エミリ・ディキンスンの伝記ドラマまで、2022年配信作品ベスト:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

村山章

村山章

年の瀬ということで、2022年の配信作品の私的ベストを挙げてみた。
 

フィクションと見紛うほどの奇跡の偶然の産物「画家と泥棒」

 U-NEXTなどで配信されている「画家と泥棒」は、ノルウェー産のドキュメンタリーだが、もはやこれはフィクションなのではないかと疑ってしまうくらいの《物語》をカメラに収めることに成功している。
 
2015年、オスロのギャラリーからチェコ出身の女性画家が描いた2枚の絵画が盗まれた。防犯カメラに映っていた犯人はすぐに逮捕されるが、本人は「キレイだから盗んだ。ほかのことはラリっていたので何も覚えていない」の一点張りで、絵画の行方もわからない。画家は裁判所で泥棒と面会し、「申し訳ない」と謝罪する相手に「自分の絵のモデルになってほしい」と依頼する。
 
事件の真相を探るミステリーかと思いきや、決して出会うはずがなかった2人の人間は、不思議な交流を重ねてお互いにとってかけがえのない存在になっていく。とはいえ恋愛ドラマではない。監督は人の日常に3年と100日密着取材を重ね、こんなにも他人の赤裸々な生き様を見つめていいものかと戸惑いながらも目が離せなくなる。完璧に決まったラストショットまで、奇跡のような偶然が必然性を招き寄せたとてつもない作品だと思う。
 
「画家と泥棒」はU-NEXTで配信中
 

Wilson Webb/Netflix (C) 2022

ノア・バームバック監督とアダム・ドライバーの再タッグ!「ホワイト・ノイズ」

 「ホワイト・ノイズ」は、これまでも「マイヤーウィッツ家の人々[改訂版]」「マリッジ・ストーリー」とNetflixと組んで人間ドラマの良作を連発してきたノア・バームバックの最新作。まるで世界の終わりに思える事故に遭遇した大学教授と妻がパラノイアに陥っていく様子をスリラーとコメディーの合わせ技で描いている。
 
バームバックのキャリアで最もスケールが大きい作品であり、3部構成の中盤がまるでスピルバーグが撮るようなディザスター大作のスタイルを踏襲しているなど、映像的なお遊びが詰まっている。ハチャメチャな展開とビジュアルで哲学的なテーマを掘り下げた、いささかややこしいけれどかみごたえのある意欲作だ。
 
「ホワイト・ノイズ」はNetflixで12/30(金)より配信
 

シュールでユーモアもある、サメが登場しないサメ映画「ノー・シャーク」

「ノー・シャーク」は読んで字のごとく「サメが登場しないサメ映画」という奇想を貫いた低予算映画。サメに執着する若い女性が「自分はサメに食べられて死にたい」と、サメに出逢(あ)える機会を求めてニューヨーク近郊のビーチを訪れて回るシュール作。ストーリー的には本当にそれだけなのだが、主人公が脳内で次々とあふれてくる思考を吐露する毒舌モノローグが秀逸で、ユーモアと皮肉の融合はカフカの小説のようでもある。こんなアメリカのインディーズ監督による超低予算映画が日本に届くのも配信の面白さだろう。
 
「ノー・シャーク」はAmazon Prime Videoなどで配信中
 

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名作映画「ゴッドファーザー」の舞台裏を描いたエンターテインメントなドラマ

 ドラマシリーズでは「ゴッドファーザー」製作の舞台裏を描いた「ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男」が、映画ファンのツボをいちいち突いてきて面白い。もはや「ゴッドファーザー」を誰もが知る名作と呼べる時代ではないのだが、ハリウッドが刺激にあふれていた1970年代の狂騒に改めて触れられる機会であり、ドラマの予習や復習を兼ねて「ゴッドファーザー」本編を見直す、なんてことも実にお正月っぽい楽しみ方ではないだろうか。
 
「ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男」はU-NEXTで独占配信中
 

画像提供 Apple TV+

現代にもつながるテーマがある19世紀の詩人の半生「ディキンスン ~若き女性詩人の憂鬱~」

 19世紀の詩人エミリ・ディキンスンの半生を、ポップな音楽と絡めながら現代につながる物語として描いた破天荒な伝記ドラマ「ディキンスン ~若き女性詩人の憂鬱~」は、昨年末に配信されたシーズン3をもって完結。1エピソードが30分程度で見やすいサイズ感ながら、作品中に込められた情報量と現代に向けたテーマの掘り下げには驚かされるばかり。特にLGBTQカップルとしてのディキンスンの真実に改めてフォーカスしており、時代物という棚に押し込めることなくイッキ見してほしい。
 
「ディキンスン ~若き女性詩人の憂鬱~」はAppleTV+で配信中
 
ノルウェーの絵画泥棒も、ビーチでサメを待ちわびる毒舌女性も、200年前に生まれた詩人も、縁遠い存在のようでいて、映画やドラマは奇妙な繋がりを感じさせてくれる。どれか少しでも引っかかった作品があれば、この年末年始に騙されたと思って手を出してもらえるとうれしいです。

ライター
村山章

村山章

むらやま・あきら 1971年生まれ。映像編集を経てフリーライターとなり、雑誌、WEB、新聞等で映画関連の記事を寄稿。近年はラジオやテレビの出演、海外のインディペンデント映画の配給業務など多岐にわたって活動中。

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