毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.12.16
雨とあなたの物語
2003年、ソウルの予備校に通うヨンホ(カン・ハヌル)は幼い頃の記憶のなかにいる友達に手紙を送る。それを受け取ったのは、釜山で母と古書店を営むソヒ(チョン・ウヒ)。質問しない、会いたいと言わない、会いに来ないことを約束して、病気の姉に届いた手紙にソヒが返事を書くようになる。
手紙のやりとりで心を通わせて大人になっていく男女の物語を、時代を行き来しながら静かなタッチで描いたラブストーリー。SNSがない時代のゆるやかな時間の流れが心地よく、ヨンホが開く傘の工房やソヒの古書店の空間も懐かしさを感じさせる。何より、〝待つ〟ことを題材にしたこの作品に説得力を与えているのは、ドラマ「椿の花咲く頃」でも純朴な役柄が似合っていたカン・ハヌルだろう。日常のささやかな奇跡を信じさせてくれる彼の魅力が存分に生かされた。「ミセン 未生」のカン・ソラがスジン役で共演し、韓国ドラマファンにはうれしい。チョ・ジンモ監督。1時間57分。東京・シネマート新宿、大阪・シネマート心斎橋ほか。(細)
ここに注目
何とも心地よい映画だ。穏やかにゆったりと余韻を味わえる。韓国映画特有の濃厚さを感じない。エピソードを詰め込まず、人物の感情をシンプルに淡々と紡いでいるからだ。時代が行き来しても気にならず分かりやすい。ヨンホに好意を寄せるスジンの切ない表情が実に美しい。(鈴)