毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.9.30
特選掘り出し!:「LAMB/ラム」 夢と幸福 奇怪な神話
いっぷう変わった映画は世界中にいくつもあるが、これほど妙ちきりんな作品にはめったにお目にかかれない。アイスランドから届いたホラー映画。いや、ファンタジーとも言えるし、サイコスリラーのようでもある。いっそ〝ストレンジ映画〟と呼びたい一作だ。
人里離れた山間部で暮らすマリア(ノオミ・ラパス)とイングバルは羊飼いの夫婦。そんな2人が羊の出産に立ち会うと、生まれてきたのは半人半羊の奇怪な赤ん坊だった。子供を亡くした悲しい過去がある夫婦は、アダと名付けたその生き物を育てるが……。
セーターを着て二足歩行する無邪気なアダに、夫婦がありったけの愛情を注ぐ光景は、開いた口が塞がらないほどシュール。雄大で荒々しい山や草原の風景をダイナミックにカメラに収め、北欧民話のエッセンスや宗教的な隠喩を織り交ぜた映像世界には、ただならぬ吸引力がみなぎる。
アダの父親である異形の怪物が姿を現す終盤の展開にも驚がく。すべての解釈は観客に委ねられているが、〝夢〟と〝幸福〟をめぐるおとぎ話として見ると、いっそう興味深い。バルディミール・ヨハンソン監督。1時間46分。東京・丸の内ピカデリー、大阪ステーションシティシネマほか。(諭)