「チャートの裏側」映画評論家の大高宏雄さんが、興行ランキングの背景を分析します

「チャートの裏側」映画評論家の大高宏雄さんが、興行ランキングの背景を分析します

2021.12.09

チャートの裏側:明快な面白さが新鮮

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

米国のコミック原作を実写映画化するマーベル映画には、実に多様な種類がある。トップに躍り出た「ヴェノム」の続編は、そのいっぷう変わった作品の1本。「スパイダーマン」シリーズの悪役ヴェノムが主人公だ。この新作が、最初の3日間で興行収入6億2000万円を上げた。 前作「ヴェノム」(2018年、最終21億9000万円)の約105%の興収と聞けば、いかに出足好調かがわかる。ヴェノムは、人間の体に入り込んで活動する寄生体だ。前作同様に、生真面目な主人公の記者の中に潜む。ときにヴェノムは、声を上げたり、部分だけ登場したりする。

〝2人〟の掛け合い漫才のようなやり取りが、前作から続く一つの見どころだろう。ヴェノムのつぶやきは、ときに記者の本音と重なる面白さを放つ。ここに、ヴェノムの力を取り込んだシリアルキラーが現れる。善人と凶悪犯にとりついた寄生体対決だ。実に明快な設定である。

最近、マーベル映画の話の展開がいささか複雑化していて、少々重苦しい印象がある。話が時間や国、地域を超える。他作品とのつながりやら、意味深なキャラクターなども含め、見るのにどこか構えてしまう。その点、「ヴェノム」の続編はシンプルそのものだ。これが今回、逆に新鮮だった。好スタートは、そのことも影響していよう。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)