BIFAN開会式に登壇したソル・ギョング(中央)と、司会のパク・ビョンウン(左)、ハン・ソナ=映画祭提供.

BIFAN開会式に登壇したソル・ギョング(中央)と、司会のパク・ビョンウン(左)、ハン・ソナ=映画祭提供.

2022.7.09

韓国映画の勢い映す 土砂降りで開幕 プチョン国際ファンタスティック映画祭

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

勝田友巳

勝田友巳

ホラー、サスペンス、アクション、ファンタジー……。韓国のプチョン国際ファンタスティック映画祭(BIFAN)はジャンル映画のお祭りだ。過去2年、コロナ禍でもリアル開催を貫き、今年はコロナ禍前の規模に戻っての通常開催。韓国映画の活気を反映するような元気のいい映画祭、現地からのリポートをお届けしよう。
 

ジャンル映画で世界に名をはせ

7月7日、午後7時からの開幕式典は、プチョン市役所前の屋外の会場で行われた。午後6時ごろ、ゲストの紹介とレッドカーペットイベントが始まる頃からポツポツと降り出した雨は、やがて土砂降りに。雨よけのテントはあるもののその場しのぎで、スターも監督も、そして観客もプレスもびしょぬれ。靴の中までぬれたのには閉口したが、そんなハプニングもお祭り気分を盛り上げるのに一役。
 
ジャンル映画祭として国際的に有名なBIFANだが、現地ではこぢんまりとして親密な雰囲気が漂っている。レッドカーペットも客席から手の届きそうなところをスターたちが歩いてゆく。推しの俳優目当てのファンが待ち構え、大きな歓声が上がっていた。
 
開会式に姿を見せた(左から)ミンホ、ハ・ダイン、チョン・ドンウォン=映画祭提供

司会はパク・ビョンウンとハン・ソナ。レッドカーペットのゲストには、新作「ニューノーマル」の公開を控えたミンホ、ハ・ダイン、チョン・ドンウォンや、今回特集上映が組まれたソル・ギョングも登場。また、コンペティション部門の審査員を務める日本の原田眞人監督も登壇し「コロナ禍で日本に足止めされていたので、ぜひ来たかった。雨の中でも楽しい。映画ファンの情熱と出合うのが楽しみ」とあいさつした。
 
レッドカーペットを歩く原田眞人監督

プチョン市長らが開会を宣言すると、打ち上げ花火が雨の夜空を飾り、映画祭は大雨の中、華々しく始まったのだった。
 

男性社会撃つ英の怪作「MEN」で幕開け

開幕作品は英国のアレックス・ガーランド監督の「MEN」。韓国初上映のホラーで、ジャンル映画祭の幕開けにふさわしい怪作だった。
 
ジェシー・バックリー演じる主人公ハーパーは、夫の悲惨な死を目撃し、傷心を癒やすため郊外の古い屋敷を訪れる。風情のある建物を気に入ったハーパーだが、庭に表れた全裸の男を皮切りに、次々と不気味な出来事に遭遇する。
 
突然現れてものも言わずうろつく、傷だらけの全裸の男の映像も強烈だが、教会で遭遇する気味の悪い少年や男尊主義の神父ら、ハーパーの前に現れるのは、死んだ夫も含め男性優位社会を象徴する人物ばかり。不気味さは次第にエスカレートし、ホラー映画らしく暴力と血と悲鳴が画面を覆う。やがてダークファンタジーというか不条理劇というか、女性不在の死と再生が繰り返される異様なクライマックスに突入。〝男性性〟を打ち砕くメッセージもさることながら、不可解なイメージの連続にあぜんとし、圧倒されてしまった。
 

日本の短編「Bird Woman」上映質疑活発に

2日目の8日、映画祭は本格始動。プチョン市庁舎にあるホールと市内のシネコンを会場に、上映が始まった。午後には短編コンペティションの上映が始まり、日本から出品された大原とき緒監督の「Bird Woman」もこの日、会場のシネコン、CGVで上映された。
 
プチョンのコンペは「プチョン・チョイス」と名付けられ、長、短編それぞれの部門で10作品ずつが賞を競う。日本からは、長編部門に保谷聖耀監督の「宇宙人の画家」、短編部門に「Bird Woman」が出品されている。
 
「Bird Woman」は通勤電車の痴漢に怒った主人公(大原監督自身が演じている)が、トキの仮面を着け真っ赤なドレスで電車に乗り、痴漢行為を働く男に掣肘(せいちゅう)を加える。その姿がSNSで拡散して支持を広げ、大勢の「鳥女」が現れる。一方で仮面で顔が見えないのをいいことにニセモノが〝元祖〟を名乗ったり、「鳥マスク」の取り締まりが始まったりと波紋を引き起こす。男性優位社会への批判と同時に、マスクで顔が覆われるコロナ禍の現実と、SNS社会の暴力性も風刺する、21分の作品だ。
 
この日は、英国、米国、中国などの出品作と合わせて上映された。いずれも無名の作家による、インディペンデントの作品だが、会場はほぼ満席。上映終了後、大原監督のほか、脚本のヘルチャン・ツイホフ、出演者のいわさききょうこが質疑応答に参加した。
 
大原監督は劇中のマスクに赤い衣装と、劇中のままの姿で登場。「日本から到着したばかり。おいしいものを教えて」と語りかけてあいさつ。ツイホフから送られた脚本に「女性が声を上げて連帯する物語は、今の時代に必要だと思った」と製作の動機を明かした。
 
「Bird Woman」上映後質疑応答に応じる大原とき緒監督(中央)と出演のいわさききょうこ(右)

会場からは次々と手が挙がり、大原監督は質問に「マスクはSNSと同じく匿名性があり、力を感じて必要以上に攻撃的になる怖さもある」「鳥は自由で、女性が解放されることを象徴的に示している」などと答えていた。歌手でもあるいわさきは生ギターで演奏を披露し、会場は大喝采。
 

パーティーも若さと活気

夜には韓国映画界が主催するパーティー「K-Movie Night」が開かれた。韓国映画史を振り返る映像で、1990年代末からの勢いを再確認。アカデミー賞、カンヌ国際映画祭を制し、今年もカンヌで2本が受賞。韓国映画の活況を改めて実感した。
 
会場で出会った2人組、聞けば日本で8月26日から「シャーク 覚醒」が公開されるチェ・ヨジュン監督と、友人で「昼間から呑む」などに出演したソン・ジェハ(ソン・サムドンから改名したそうだ)。チェ監督の短編が今回の映画祭で上映されるそうで、「『シャーク』もよろしく」とアピール。若い映画人でにぎわう会場で、韓国映画の加速する勢いを感じたのだった。
 

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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