「サンクチュアリ-聖域-」より

「サンクチュアリ-聖域-」より

2023.5.29

あふれ出す熱量と密度に目が離せない「サンクチュアリ-聖域-」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

村山章

村山章

今年5月に配信がはじまったNetflixのドラマシリーズ「サンクチュアリ-聖域-」が人気だという。体感として、日本オリジナルのNetflix作品としては2019年の「全裸監督」に次ぐ追い風が吹いている印象だ。それも当然だろう。日本の映画やドラマの歴史において、誰も成し遂げなかったことが眼前に広がっているのだから。
 
「サンクチュアリ」が描いているのは、日本の国技「大相撲」の世界。ろくでもない家庭環境で自暴自棄な日々を送っていた主人公が、相撲部屋にスカウトされて最強の力士を目指す。立ちはだかるのは角界の因習や先輩からのシゴキ、対立する部屋の妨害やライバル力士‥‥‥。王道のスポ根といえばスポ根だが、画面からあふれ出す熱量と密度が尋常じゃなく、いちいち目が離せない。
 
相撲を扱った映像作品で最も有名なのは、おそらく周防正行監督の「シコふんじゃった。」だろう。昨年には続編となるドラマシリーズ「シコふんじゃった。」もディズニープラスで配信された。ただし「シコふんじゃった。」が扱っているのは大学相撲。線の細い本木雅弘が主演していることもギリギリだが納得できた。
 
しかし大相撲となると、フィクションにしてもハードルがいきなり上がる。出演者たちに、本物の力士に見えるだけの説得力のある身体が備わっていないといけないからだ。
 


徹底した肉体作りが本作の成功要因に

「サンクチュアリ」では、元格闘家の一ノ瀬ワタルを筆頭に、力士役の俳優たちの実在感が凄(すさ)まじい。半年にわたるオーディションで勝ち残ったキャストたちは、専門家の指導で120kg以上になるまで体重を増やし、同時進行で相撲の稽古(けいこ)に励んだ。専門家から健康を保ちながら増量するのは半年間で40kgが限界と言われ、オーディションの第一条件は体重が80kg以上あることだったという。
 
結果、演技と相撲を両立させた最強のチームができあがった。なによりも力士に見えるビジュアルにこだわったことは、本作を成功に導いた最大の要因だろう。劇中では、ほとんどいじめに近いようなぶつかり稽古も描かれるのだが、あまりにも真に迫っていて、もはや「見てはいけないものを見ているのではないか」とすら思ってしまう。この作品に懸ける気迫と努力が、そのまま役者たちのフィジカルに現れているのだ。
 
とはいえ不満点もある。ゲイの登場人物のコメディーリリーフ的な扱いや、相撲界の常識を拒否していた主人公や帰国子女の女性記者がいつしか伝統へのリスペクトを学ぶ流れは、作品自体が巨大なエネルギーを持っているだけに、いささか保守的でもったいなくも感じてしまう。とはいえ作中には日本に巣くう旧弊を暴こうとする姿勢も確実にあり、シーズン2でより掘り下げられる宿題のように感じている。
 
シーズン1の撮影終了後には、力士役の出演者たちを元の体重に戻すプログラムまで組まれていたという。もし今後シーズン2が作られるなら、また壮大な肉体改造から再スタートしないといけないわけで、ハードルの高さに目眩(めまい)がする。しかしここまで期待値を上げてきた以上、誰も手を出していなかった領域にどんどん踏み込んでいってほしいと願っている。
 
「サンクチュアリ-聖域-」はNetflixで世界独占配信中

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ライター
村山章

村山章

むらやま・あきら 1971年生まれ。映像編集を経てフリーライターとなり、雑誌、WEB、新聞等で映画関連の記事を寄稿。近年はラジオやテレビの出演、海外のインディペンデント映画の配給業務など多岐にわたって活動中。

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