誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。
2024.12.04
韓国ドラマを日本で再創造 内野聖陽はマ・ドンソクを超えたか 「アングリースクワッド」
まずはこの映画の原作である韓国ドラマ「元カレは天才詐欺師 38師機動隊」のタイトルの由来となっている、実在するある組織について述べる必要がある。
〝悪質滞納者の死に神〟の活躍描く原作ドラマ
38機動隊。「高額税金滞納者の死に神」とも呼ばれるこの組織の正式名称は「38税金徴収課」。国税庁ではなく、ソウル市庁所属の同組織の業務は、納税の義務を規定する韓国の憲法第38条から取った名称からも分かるように、十分な経済力があるにもかかわらず、地方税を滞納する悪質な高額滞納者(悪質滞納者)を追跡し、強制徴収および行政制裁を実施すること。
強制徴収を実行するためには徹底した情報収集が必須で、悪質滞納者の隠匿不動産や金融資産はもちろん、親戚関係までも調査する。実施日が決まれば、業務時間などは関係ない。悪質滞納者の場合、個人警備室を備えた高級住宅に居住していることが多いだけに、防御網を突破するために夜明けから潜伏勤務をする。
「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」©︎2024アングリースクワッド製作委員会
細大漏らさず徹底徴収
強制徴収の実態は実に恐ろしい。居留守を使ってドアを開けなければ警察官の立ち会いの下、救急隊と鍵業者を呼んでバールやドリルでこじ開けて突入して納付を要求し、応じない場合は家宅捜索を開始する。機動隊員は長年の経験から体得したノウハウにより、ボイラー室、天井などの隠し場所をよく知っている。現場で発見された現金は全額没収して直ちに納付処理し、現金の他にも価値があると判断されるものは全て没収する。
主に金塊、高価なハンドバッグやウイスキーなどが対象になる。車には差し押さえられたことを明示するステッカーが貼られ、乗れないようにナンバープレートを持っていくが、期限を過ぎると車の所有権は公売に付される。強制徴収の場所は自宅だけではない。子女の結婚式場にまで出動し、宴会場に費用を払っている現場で納付を要求し、貸金庫を利用していれば差し押さえて強制開封をする。
日本人にはその方式が行き過ぎだという印象を与えかねない38機動隊は、韓国では何度もニュースなどで取り上げられ、悪質滞納者に自分たちの金を奪われていると感じる韓国国民には国民的英雄として位置づけられている。そのため、原作の韓国語タイトルは「38사기동대(38詐欺動隊)」である。
上田慎一郎監督の時間配分の妙技
ドラマ「愛の不時着」の制作会社スタジオドラゴンの制作で全16話。しかし、日本の観客に最適化され、全く違う物語に生まれ変わった「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」の上映時間は120分だ。「1003分対120分なら、何か足りない感じがするのではないか」と考える読者がいるかもしれないが、筆者はむしろ同作を劇場で見るべき重要な理由のひとつだと考える。
筆者がプログラムアドバイザーとして働いていたプチョン国際ファンタスティック映画祭に出品した「カメラを止めるな!」から、上田慎一郎監督が「喜劇の巨匠」としての才能とともに特別な能力をアピールしていた分野が、瞬きする時間さえもったいないと感じさせるランニングタイム配分のテクニックだからだ。彼は、原作ドラマの出演俳優を超える「イケメン力」を誇る氷室(岡田将生)が出所するファーストシーンから、たったひとつのカットも無駄にしない迫力あふれる展開で観客を導いている。120分間、何もせず客席に座って集中しなければならないという、場合によっては致命的な制約になりかねない劇場用映画の特性を、最大の長所に変える演出力の成果なのだ。
公務員の悲哀を一身に表した内野聖陽
岡田将生の話が出たついでに言うと、「新感染 ファイナル・エクスプレス」でアクションヒーローのイメージを構築し始めた馬東錫(マㆍドンソク)を、正反対のイメージの無気力な公務員として登場させてアピールした原作ドラマとは異なり、「アングリースクワッド」の面白さに決定的な役割を果たしているのが、紫綬褒章に輝く名優、内野聖陽の敬愛に値する演技力だ。初登場の場面から文字通り「後頭部でも演技をしている」彼を見ながら、これはどこの税務署からキャスティングした人物なのかと思ったほどだった。
誰にも負けないイメージの馬東錫が見せた力のない姿は、「あんな一面もあるんだ」という感嘆を誘うことができるが、馬東錫について事前情報を持たない観客には無効な設定。しかし内野聖陽が見せた日本のどこでもよく見かける優しいおじさんの姿は、職場であらゆる種類のストレスにさらされ、とんでもない屈辱と言い表しがたい悲しみを抱いて生きていたことを感じさせ、「公務員があんなことをしていいのか」とあぜんとしかねない日本の観客も映画に没頭して彼を応援するしかない。
小澤征悦のはまりすぎたビラン
さらに休む間もなく笑い、興奮しながらこの作品に没頭することに絶対的な貢献をしているのが、橘役の小澤征悦だ。数人の俳優が各レベルのボスとして登場し、役割を分けて演じている原作ドラマのビラン(悪役)を、たった一人で全部背負っている。過剰反応するひきょう者、あちこちに金をばらまく品のない金持ち、何にでも負けず嫌いの小人物、奸計(かんけい)をめぐらせながら弱者を脅迫する悪人を演じている彼を見ると、実際には知的で正直な面を持ち、俠気(きょうき)あふれる好人物なのに、今後は悪役のオファーが殺到するのではないかと心配になるほどだ。
日本の漫画「ルーズ戦記 オールドボーイ」を映画化してカンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞した「オールドㆍボーイ」、日本映画「鍵泥棒のメソッド」をリメークして韓国内で60億円を超える興行収入を上げた「ラッキー(LUCK-KEY)」など、日本のIPを韓国で活用して成功を収めたケースは数え切れない。それなら、逆に韓国のIPを再創造する日本のクリエーターの能力はどうか。言うまでもないが、読者の目で直接確認することを望む。きっとその満足度は極めて高いはずだ。