誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。
2025.1.28
<ネタバレあり>コロナ禍で青春台無し……20歳大学生が70代女性の若返り映画「アーサーズ・ウイスキー」を見て決意したこと
20歳になったばかりの私が「もしも若返れるなら……」と考えてしまった。イギリスのコメディー「アーサーズ・ウイスキー」を見ながら、コロナ禍で過ごした高校時代の未練や後悔が、あれこれと浮かんできてしまったのだ。
20代に戻って人生やり直し
舞台はイギリスの郊外。リンダ、ジョーン、スーザンの3人は、70代の老いた体を嘆いている。ある日、自称発明家だったジョーンの夫が残したウイスキーを飲むと、翌朝には20代の体に若返っていた。若くなった体でやることリストを作成し、強いお酒やクラブでのダンスを楽しむが、ウイスキーの効果が切れると70代の見た目に戻ってしまう。効果は6時間程度と考え、それぞれのミッションを遂行していく。元夫に復讐(ふくしゅう)をしたり、恋を楽しんだり、思い出の人を探したり。最後のウイスキーを持って3人はずっと望んでいたラスベガスへと旅に出る。
リンダは夫の不倫で結婚生活が台無しになり、スーザンはお菓子の店を持つ夢をかなえられず独身を通し、ジョーンは同性の恋人との別れを悔いている。3人が20代だった約50年前、女性が今よりも生きにくい世の中だったはず。時代の波に翻弄(ほんろう)され、自分にはどうにもできない不条理の中で、行き場のない怒りや後悔を抱えてきたのだろう。ウイスキーを飲んで若返った彼女たちは、自由奔放に、そして力強く自分たちの人生を謳歌(おうか)する。失ったものばかりに目を向けて嘆き悲しむのではなく、別の場所に幸せを見つけようとする。
不完全燃焼の文化祭「人生終わった」
70年分の人生とは比べ物にならないが、昨年20歳を迎えた私にもやり直したいと思う時代がある。それは、高校生として過ごしたコロナ禍の3年間だ。休校やオンライン授業が続き、心待ちにしていた学校行事も次々と中止された。中高一貫校で高校生の先輩たちの充実した学校生活に憧れを抱いていた私にとって、絶望に近い出来事だった。特に心に残っているのは、文化祭だ。私は実行委員に立候補し、何とかして対面開催を実現しようと奔走していた。だが、最終的には緊急事態宣言が出たら文化祭は中止という条件がつけられ、常に不安定な状況に振り回され続けた。結局、文化祭は生徒のみで小規模に実施されたが、以前のようなにぎわいや達成感は感じられなかった。
もし若返りウイスキーがあるなら、高校時代の自分になりたい。当時、高校生活は私にとって全てであり、それを失ったことが人生の終わりのように感じられていた。しかし、学校生活が制限されている中でも、オンラインでの交流やボランティア活動など、情熱を注げる別の何かを見つけられたはずだと今になって思う。過ぎた時間は戻ってこないが、後悔を知っている今ならやりたいことを思い切りできる気がする。
3人がラスベガスで楽しい夜を過ごした翌朝、悲しい出来事が待っている。人生が永遠ではないことを改めて突きつけられる。私がこうして未練を思い出している時にも、時間は刻一刻と過ぎていく。今が残りの人生で一番若い時だ。飾らずに生きる大切さに気づいた登場人物を見て、自分も後悔のないように生きようと思った。逆境に直面しても、身近に隠れている幸せに気づける人でありたい。