誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。
2024.11.21
ウルトラマン、ジョジョ、高倉健、都市伝説!「ダンダダン」の引用&独自性を考察
2021年にマンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」で連載開始し、看板作品の一つにまで上り詰めた人気作「ダンダダン」。23年11月には累計発行部数320万部、閲覧数3億6000万超に到達し、24年10月よりテレビアニメがTBS系で放送中だ(動画配信サービスでも配信中)。
ジャンル、オマージュ詰め込んだ〝闇鍋〟
妖怪に呪われ、その能力を一部使えるようになった男子高校生・オカルンと、宇宙人と遭遇し、超能力に目覚めた女子高生・モモが、さまざまな怪異に立ち向かっていく本作。その魅力の一つは、「チェンソーマン」「地獄楽」のアシスタント経験を持つ著者・龍幸伸の圧倒的な作画力と、ホラー、アクション、青春ラブストーリー、コメディーなどなどのジャンルを横断する自由かつ斬新な作風&物語展開にあるといえる。さらに古今東西のオカルトから映画、アニメ、ゲームへのリスペクトがこれでもかと詰め込まれており、さながら〝闇鍋〟的面白さがある。
ターボババア(100キロババア)やカシマレイコ、THIS MANといった都市伝説、高倉健の「自分、不器用ですから」に(オカルンの本名が高倉健)、「ジョジョの奇妙な冒険」のオマージュとみられる「てめえはウチを怒らせたぜ」といったセリフ、直近のエピソードには「ウルトラマン」のゴモラとレッドキングをミックスさせたような怪獣やさくらももこの「コジコジ」を想起させるキャラクターが登場し、「ジュマンジ」や「ミュータントタートルズ」「ストリートファイター」などからの引用が見られる。物語を追うだけでなく、オマージュ元を探す楽しさも内包しているのだ。
「ダンダダン」第8話©龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会
製作、キャストはバケモン的布陣
そうした特徴が一層強化されたのが、大いにバズを引き起こしているテレビアニメ版だ。「四畳半タイムマシンブルース」「犬王」などで知られるアニメーションスタジオ、サイエンスSARUがアニメーション制作を手掛けており、同社の「映像研には手を出すな!」「平家物語」に参加した山代風我が監督を担当。シリーズ構成・脚本は「呪術廻戦」「チェンソーマン」の瀬古浩司、音楽は「映画 聲の形」「チェンソーマン」「チ。 地球の運動について」の牛尾憲輔、キャラクターデザインは「ベルセルク」「PSYCHO-PASS」の恩田尚之などなど、まさに「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!」的な布陣になっている。キャスティングにおいても、モモ役の若山詩音、オカルン役の花江夏樹に加えて、主人公サイドのアイラやジジを「僕のヒーローアカデミア」の佐倉綾音と石川界人という若手実力派が演じているのに対し、ターボババア役を田中真弓、セルポ星人を中井和哉、アクロバティックさらさらを井上喜久子、ドーバーデーモン(シャコ星人)を関智一と、敵キャラクターをベテランが固める構造になっているのが興味深い。さらに主題歌はOPをCreepy Nuts、EDをずっと真夜中でいいのに。と、人気ミュージシャンを起用。
そのOP映像だが、明確に「ウルトラマン」へのオマージュが見られる。「ウルトラマン」のOPといえばウルトラマンや怪獣を影絵で表現した演出が有名だが、そっくりそのまま引用されているのだ。かつ、モモが躍動するときに揺れるイヤリングが一瞬ウルトラマンの目に見える、というなんとも粋な演出が施されている。当然ながら原作にはOP映像はないが、アニメ化された際にその精神性が継承されている点が心憎い。こうした「いいぞもっとやれ」感が、アニメ「ダンダダン」が原作ファンからも支持を得ている理由の一つだろう。
ほとばしる〝サイエンスSARUカラー〟
もちろん、アニメ「ダンダダン」のすごみはオマージュ部分にとどまらない。サイエンスSARUの特徴の一つは自由度の高さと躍動感――跳ねるような身体表現や緻密に描き込む部分と、あえてデフォルメする部分を共存させる画面構成、そこからはじき出される静と動のギャップといった、リアリティーにとどまらない遊び心にあるだろうが、そうしたカラーが全体にほとばしっている。第1話から、怒濤(どとう)のスピード感やハイテンションな芝居といった目まぐるしい情報の洪水で視覚と聴覚をジャックし、世界観をたたき込んでいくのだ。このエピソードではモモVS宇宙人、オカルンVS妖怪が別々の場所で同時進行し、途中から合流するのだが、前者はシャープに、後者はおどろおどろしくとテイストをがらりと変えている。
さらに、色の表現にも注目したい。宇宙人と戦う際には「虚空」と呼ばれる特殊な結界が展開され、妖怪と戦う際も霊力を持たない人間には認知されないのだが、前者はモノクロやブルー基調、後者はレッド基調で統一されている。宇宙人に対してオカルンが妖怪の力で対抗する第2話では、オカルンが変身した際にモノクロの中に赤が入る演出が施されており、視覚的にも映える〝カッコよさ〟に昇華されている。冒頭に「闇鍋」と書いたが、情報量MAXの押せ押せなパワー系足し算スタイルと、そぎ落としてきっちりと見せる引き算の美学の使い分けもうまい。その真骨頂と言えるのが、放送直後に話題を集めた第7話だ。
真骨頂の第7話 映像技巧と演出駆使
「あらゆるものを巻き込む」髪の毛を自在に伸ばして攻撃する妖怪・アクロバティックさらさらとのハイスピードなバトルから一転、中盤からはアクロバティックさらさらの悲しい過去が描かれる回想/過去編へとスライド。すると一気に写実的な映像に変わり、生活苦の中でも幸せな日々を過ごしていたある親子に待ち受ける悲壮な運命をノスタルジックかつエモーショナルに描いていく。主観映像や星空をパノラマで見せる映像美、物悲しい音楽、極力排除されたセリフといった構成要素も連動しており、アクロバティックさらさらの服装、バレエ的な動き、アイラへの謎の執着といった〝伏線〟がすべて回収されるすさまじい内容になっている。
つわものぞろいの秋クールのテレビアニメの中でも、異彩を放つ「ダンダダン」。映像表現の粋を集めた「現代怪奇戦闘恋愛物語」の人気は、ここからさらに上がっていくことだろう。