ジュリア(s)_サブ2©WY PRODUCTIONS–MARS FILMS–SND-FRANCE 2 CINÉMA

ジュリア(s)_サブ2©WY PRODUCTIONS–MARS FILMS–SND-FRANCE 2 CINÉMA

2023.5.02

34歳悩める女性ライターが120%共感したマルチバース 「ジュリア(s)」で偶然と選択が導く人生たち

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

山田あゆみ

山田あゆみ

結婚に出産、そして家庭と仕事。世の女性たちはどうやって取捨選択をしているのだろう。そして、どうやって両立しているのだろう。「ジュリア(s)」と複数形になっているとおり、この映画はさまざまな選択と偶然の結果枝分かれする、ひとりの女性の人生を並行して描いていく。
 
現在34歳で既婚、仕事や家庭で悩む私には120%共感型マルチバース映画だった。
 


 

ベルリンの壁崩壊から始まる物語

物語の始まりは、ベルリンの壁が崩壊した1989年。プロピアニストになるためにアムステルダムにある全寮制の音楽大学に通うジュリアは、親からのプレッシャーや厳しい教師の下、ピアノの練習に励む優等生だった。ある夜、ジュリアはベルリンの壁崩壊の瞬間を現地で見ようと、友人らを誘い出す。
 
首尾良く学校を抜け出したジュリアは崩壊する壁の横でピアノを演奏、その姿が新聞で報道され一躍有名になる。しかし、勝手な行動を両親にとがめられたことで口論になり、学校をやめて1人でベルリンに行ってしまう。
 
一方、部屋に落としたパスポートを拾いに戻ったジュリアは、教師に見つかり出かけることはできなかった。大学卒業までピアノ一筋で恋愛もできず、鬱々とした日々を過ごすことになる。
 
あの時、パスポートを落とさなければ……。小さな偶然がジュリアの人生を大きく左右する。


 

キャリアの正念場、いずれは子どもも……

ジュリアと私の共通点は、好きなことを仕事にしようとしているところだ。現在の私は、トリマー歴13年。4年前からライターを兼業中。どちらも好きな仕事で、やりがいを感じているし目標もある。特にライターとしてのキャリアは積み上げ段階だ。今ひと休みをしている場合ではないと感じている。
 
その一方で、年齢的に出産の可能性が減っていくことが気になっている。35歳を境に妊娠率は低下していく。誰に聞いても超ハードな子育ては、体力があるうちにするのがいいのも確かだろう。
 
結婚8年目、夫婦ともに今すぐどうしてもというわけではないが、いつかは子どもが欲しいという気持ちだ。夫が育休を取ったとしても期間は知れているし、結局育児に時間を取られるのは自分だろう。その間やりたいことは我慢しなければいけない。そもそも、いくら欲しくてもすんなり授かるとも限らないのだ。子どもと仕事。考えても答えが出ない状態がここ数年続いている。


 

ピアニストになれても、なれなくても

ピアニストとして脚光を浴びはじめたジュリアは、ツアー直前に妊娠が発覚し、2人の子どもの出産、育児に追われる。育児が一段落し、キャリアを再開しようとしても、そのブランクは簡単には埋められず、仕事を得ることはできなかった。
 
映画を見ながら「やっぱりそうじゃないか……」と軽いショックを受けた。ピアニストのように特殊な仕事でなくても、こんなふうにキャリアを諦めざるを得なかった女性はいるはずだ。
 
ピアニストとして成功したジュリアもいる。しかし彼女は、両親や周囲の人間と距離を置いた孤独な生活を送っていた。音大時代の友人は育児に追われ「1時間でいいからジュリアになりたい」とうらやましがり、子育てに追われる苦しみは「産まないとわからない」と言う。その言葉を笑って聞くジュリア。しかし、夜にひとり外を眺めながら孤独をかみ締める。友人の言葉通り、その身にならないと結局気持ちは分からないのだ。
 
さらに別の人生では、ジュリアは事故によってピアニスト生命を絶たれ、高校合唱部の教師になっていた。ジュリアは生徒たちに音楽の美しさや、観客に音楽を届ける喜びを親身になって教える。そして年老いてから、たくさんの教え子たちに合唱を通して感謝を伝えられる。感謝されるために教えていたわけではないはずだが、自分の夢を諦めた上で音楽に向き合った結果が生徒たちの力になったのなら、ピアニストになるよりも有意義だったのかもしれない。


 

幸せ信じ柔軟に

この映画はたくさんの〝もしも〟を見せてくれた。どの道を比べても、これが最適だと言えるものはない。ピアニストの夢は断たれても、音楽を愛する気持ちを持ち続けたジュリアは、教え子たちから感謝された。夢をかなえたのに、思いがけない不運に苦しめられるジュリアもいた。
 
この映画を見たからといって、出産や仕事について私の答えが出たわけでも、決断ができたわけでもない。それでも、自分が持つべきマインドは見つけることができたと思っている。
 
映画の冒頭で「重要な決断は人生そのものが下すようにも感じる」というナレーションが入る。人生は偶然と選択の繰りかえし。全て自分でコントロールできるわけでもない。きっと、失敗も間違いもないのだ。
 
私だって、自分の根幹にある〝好き〟を持ったまま、アプローチを変えることで道が開けるかもしれない。偶然と選択の結果を、柔軟に受け入れて生きていこう。

ライター
山田あゆみ

山田あゆみ

やまだ・あゆみ 1988年長崎県出身。2011年関西大政策創造学部卒業。18年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを開催。「カランコエの花」「フランシス・ハ」などを上映。映画サイトCinemarcheにてコラム「山田あゆみのあしたも映画日和」連載。好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を見る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中。

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