ひとしねま

2022.6.09

チャートの裏側:五輪を「記録」する視点

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

何とも厳しいスタートになったものだ。「東京2020オリンピックSIDE:A」である。3日間の興行収入は、1700万円(全国200館)であった。チャート内に入ってこないどころの話ではない。興行的な事件とさえ言っていい。理由はいくつもあるが、ここでは2点だけ挙げる。

まず、昨年の東京五輪に対する人々の接し方、思いの複雑さである。今、振り返っても、競技そのものを実感する以上に、あの時のわだかまりの感情が込み上げてくる。東京五輪を心の底から楽しめなかった人が多かったと思う。その複雑な感情が興行に影響したとみる。

本作は、東京五輪の公式記録映画という形をもつ。映画を見た限りでは、そうなってはいなかった。いわば、東京五輪を題材にした私的なドキュメンタリーに近い印象をもった。公式とうたうのであれば、多くの競技、スポーツの「記録」が最重要と思う。その視点が弱かった。

製作者たちが、不利な戦いを強いられたのは想像に難くない。昨年の東京五輪は、誰がどのように記録映画として撮っても、その困難さは計り知れない。五輪で欠かせない見る側の高揚感がそぎ落とされたからだ。では何を描くか。それは躍動するアスリートの姿そのものだったのではないか。五輪の原点に戻る。あえて、そう言いたい。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)